私たちが、発達障害の支援・不登校支援・精神疾患の予防支援に力を入れる理由

看護師 山田祥和

「なぜ訪問看護ステーションこころいKは、発達障害のある方や不登校の子どもたちへの支援に力を入れているのですか」

このような質問をいただくことがあります。

精神科訪問看護というと、すでに精神疾患を発症している方の自宅を訪問し、服薬管理や生活支援、病気の早期発見を行うというイメージが強いかもしれません。

もちろん、それも私たちは大切にしています。

しかし、私たち訪問看護ステーションこころいKが目指しているのは、病気になってから支援することだけではありません。

精神疾患をできるだけ重くしないこと。

二次障害を予防すること。

そして、その人が本来持っている力や可能性を失わずに生きていけるよう支えること

私たちは、この「予防」という視点をとても大切にしています。

日本の未来を支えるのは、人の力


経済が発展するためには、一般的に「人口」「資源」「イノベーション」が必要だと言われています。

しかし、日本の現状を考えると、人口が今後大きく増えていくことは、なかなか期待できません。
少子高齢化が進み、働く世代は減少しています。

また、日本は天然資源にも恵まれている国とは言えません。
石油や天然ガスなど、多くの資源を海外からの輸入に頼っています。

そう考えたとき、日本がこれから世界の中で存在感を保ち、社会を発展させていくためには、やはり人の知恵や発想を生かしたイノベーションが必要なのではないかと思います。

新しい技術をつくること。
今までにないサービスを生み出すこと。
これまでの常識とは違う視点から、社会の問題を解決すること。

それを生み出すのは、機械や資源やAIではなく、最終的には一人ひとりの人間です。

そして、人が自分の力を発揮するためには、こころの健康が欠かせません。

能力があっても、こころが疲れていては力を発揮できない


どれほど高い能力や豊かな発想を持っていても、強い不安や自己否定を抱えていたり、精神的に追い詰められていたりすれば、本来の力を発揮することは難しくなります。

「自分は何をやっても駄目だ」
「周りの人と同じようにできない」
「学校に行けない自分には価値がない」
「自分は社会に必要とされていない」

このような気持ちを長く抱え続けることで、うつ状態や不安障害、対人恐怖、引きこもりなどにつながってしまうことがあります。

特に発達障害のある方は、周囲から特性を理解されにくく、幼い頃から失敗体験や叱責を繰り返していることがあります。

本人は一生懸命に取り組んでいるのに、「やる気がない」「努力が足りない」「わがままだ」と受け取られてしまう。

集団行動が苦手だったり、音やにおい、光などへの感覚過敏があったり、人との会話で相手の意図を読み取ることが難しかったりすることもあります。

それが学校生活や職場でのつまずきにつながり、自信を失ってしまうのです。

発達障害そのものよりも、その後に起こる二次障害によって、生活が大きく苦しくなっている方は少なくありません。

発達障害のある方が持つ、大きな可能性


一方で、発達障害のある方には、他の人にはない強みや魅力があります。

興味を持ったことに、驚くほど集中できる。
一つの分野を深く掘り下げられる。
細かい違いに気づくことができる。
周囲の常識にとらわれず、独自の発想ができる。
人が見過ごしてしまう問題を、違う角度から見ることができる。

もちろん、発達障害のある方すべてが特別な才能を持っているという単純な話ではありません。

発達障害の特性も、得意なことも苦手なことも、一人ひとり違います。
ただ、一般的な学校や社会の枠組みに合わないからといって、その人に能力がないわけではありません。
今の環境では力を出せていないだけかもしれません。

本人に合った方法や環境が整えば、これまで苦手だと思われていた方が、ある分野で大きな力を発揮することがあります。

不登校になっている子どもたちの中にも、ゲーム、パソコン、動画編集、絵、音楽、ものづくり、研究、歴史、乗り物など、特定の分野に強い関心や能力を持つ子がいます。

学校に行けていないという一点だけで、その子の将来まで否定されるべきではありません。
今はまだ社会の中で力を発揮する準備が整っていないだけです。

安心できる環境と、理解してくれる人との出会いがあれば、その子の可能性は大きく広がるかもしれません。

不登校は単なる怠けではない


不登校についても、私たちは「学校に行かないこと」だけを問題として考えていません。
子どもが学校に行けなくなる背景には、さまざまな理由があります。

人間関係の悩み。
学習についていけない苦しさ。
集団生活への疲れ。
感覚過敏による負担。
先生との関係。
失敗することへの強い不安。
発達障害の特性。
家庭内の問題。

本人にも、なぜ学校に行けないのか分からない場合があります。
行きたい気持ちはあるのに、朝になると体が動かない。
制服を見るだけで涙が出る。
校門の近くまで行くと、お腹が痛くなる。

本人は決して楽をしているわけではありません。
学校に行けないことで、本人自身が最も悩み、自分を責めていることもあります。

そのような状態の子どもに、ただ「学校に行きなさい」と言い続けても、問題は解決しません。
むしろ、自信を失い、家族との関係も悪化し、さらに家から出られなくなることがあります。

私たちが大切にしているのは、学校に行かせることを最初の目標にするのではなく、まず本人が安心して生活できるようにすることです。

生活リズムを整える。
自分の気持ちを話せるようになる。
好きなことを一緒に見つける。
家族以外の大人と関わる練習をする。
近所を散歩する。
買い物に行ってみる。
少しずつ社会との接点を増やしていく。

こうした小さな積み重ねが、将来の学校復帰や進学、就労、社会参加につながっていきます。

なぜ訪問看護なのか


不登校や引きこもりの状態にある方にとって、外に出ること自体が大きな負担になる場合があります。
相談機関や医療機関を紹介しても、そこまで行くことができません。

知らない場所に行くこと。
初対面の人と話すこと。
待合室で人と一緒に過ごすこと。
それらが本人にとって高い壁になっていることがあります。

そこで力を発揮するのが、アウトリーチである訪問看護です。

訪問看護では、本人が最も安心できる自宅へ支援者が伺います。
最初から無理に話す必要はありません。
挨拶だけで終わる日があっても構いません。
ゲームをしながら過ごす日があってもよいのです。

本人が好きなアニメや音楽の話を聞いたり、一緒にカードゲームをしたり、短時間だけ散歩をしたりすることもあります。

一見すると医療的な支援に見えないかもしれません。
しかし、そのような関わりを続けることで、本人の中に少しずつ変化が生まれます。

「この人なら話しても大丈夫かもしれない」
「家族以外にも、自分のことを分かってくれる人がいる」
「自分は一人ではない」
その感覚が、社会とつながる最初の一歩になります。

訪問看護師は、症状や服薬だけを見るのではありません。
生活リズム、食事、睡眠、家族関係、学校生活、対人関係、将来への不安など、その人の生活全体を見ながら支援します。

必要に応じて、主治医、学校、相談支援専門員、行政、放課後等デイサービス、就労支援事業所などとも連携します。

本人と家族だけに問題を抱え込ませず、地域全体で支えられる体制をつくっていくことも訪問看護の役割です。

私たちが目指すのは、精神疾患の早期発見と予防


精神疾患への支援は、症状が重くなってから始まることが少なくありません。

学校に行けなくなって何年も経っている。
部屋から出られなくなっている。
家族との会話がほとんどなくなっている。
自傷行為や希死念慮が出ている。

そこまで状態が悪化してから、ようやく医療や福祉につながる方もいます。

もちろん、どの段階からでも支援はできます。
しかし、もっと早い段階で誰かが関われていれば、状態の悪化を防げた可能性があります。

少し学校を休み始めたとき。
昼夜逆転が始まったとき。
家族との衝突が増えたとき。
外出が減ってきたとき。
本人が「自分なんていない方がいい」と言い始めたとき。

そうした小さな変化の段階から関わることで、精神疾患の発症や重症化を防げることがあります。

精神疾患を発症した方を治療することは、もちろん重要です。
しかし、精神疾患になる前に支えることも、同じくらい大切です。

私は、精神科訪問看護には、精神疾患の予防的な支援という大切な役割があると考えています。

家族への支援も欠かせない


発達障害や不登校の支援では、本人だけでなく家族も強い負担を抱えています。

「どう声をかければよいか分からない」
「このまま引きこもりになったらどうしよう」
「ゲームばかりしていて将来が心配」
「学校に行かせた方がよいのか、休ませた方がよいのか分からない」
「親として育て方を間違えたのではないか」

このように悩み、自分を責めている保護者の方も少なくありません。
家族だけで問題を解決しようとすると、どうしても親子ともに追い詰められてしまいます。

訪問看護師が第三者として家庭に入ることで、本人と家族の間を調整できることがあります。

本人の気持ちを家族に伝える。
家族の心配を本人に伝える。
適切な距離の取り方を一緒に考える。
保護者の話を聞き、休める時間をつくる。

本人だけではなく、家族のこころの健康を守ることも、私たちの大切な役割です。

私自身には、イノベーションを起こす能力はない


私は、新しい技術を開発できるわけではありません。
世界を変えるような発明ができるわけでもありません。
画期的なビジネスを生み出せるわけでもありません。

正直に言えば、私自身にはイノベーションを起こすような能力はないと思っています。
しかし、私たちには精神科看護師として積み重ねてきた経験があります。

人の話を聞くこと。
こころの状態の変化に気づくこと。
精神疾患の発症や悪化を予防すること。
本人が持っている力を一緒に見つけること。
家族や地域の支援者をつなぐこと。
自信を失っている方が、もう一度自分を信じられるよう支えること。

それは、私たちだからできることです。
私自身が新しい技術や価値を生み出せなくても、将来それを生み出す可能性のある人を支えることはできます。

社会に適応できないことで苦しんでいる人が、精神疾患を発症しないように支える。
不登校の子どもが、自分の価値を失わないように支える。
発達障害のある方が、自分に合う環境や生き方を見つけられるように支える。

それが、訪問看護ステーションこころいKにできることだと思っています。

一人のこころを守ることが、社会の未来を守る


目の前の一人を支援することは、一見すると小さな取り組みに見えるかもしれません。
しかし、その一人には、まだ誰も気づいていない可能性があります。

今は部屋から出られない子どもが、将来新しいシステムを開発するかもしれません。
人との会話が苦手な方が、誰にも真似できない作品をつくるかもしれません。
学校では評価されなかった方が、社会の課題を解決するサービスを生み出すかもしれません。

もちろん、すべての人が大きな成果を出す必要はありません。
イノベーションを起こさなければ価値がないわけでもありません。

穏やかに暮らすこと。
自分らしく働くこと。
好きなことを楽しむこと。
家族や地域の中で役割を持つこと。
それだけでも十分に大切なことです。

そのうえで、一人ひとりが安心して自分の力を発揮できる社会をつくることが、日本の未来にもつながっていくと私たちは考えています。

こころいKがこれからも取り組んでいくこと


訪問看護ステーションこころいKは、これからも発達障害の支援、不登校支援、引きこもり支援、精神疾患の予防支援に積極的に取り組んでいきます。

すぐに学校へ戻すことだけを目標にはしません。
すぐに働かせることだけを目標にはしません。
本人の気持ちを置き去りにして、社会に無理やり合わせることもしません。

まずは安心できること。
信頼できる人と出会うこと。
自分の気持ちを少しずつ言葉にできること。
自分にもできることがあると思えること。
そして、その人なりの形で社会とつながっていくこと。

一つひとつの小さな変化を大切にしながら、その人の未来を一緒に考えていきます。

私には、イノベーションを起こす能力はありません。
しかし、イノベーションを起こす可能性のある人のこころを守り、その人が持っている力を発揮できるよう支えることはできます。

それが精神科訪問看護の力であり、訪問看護ステーションこころいKが発達障害支援、不登校支援、精神疾患の予防支援に力を入れる理由です。

一人ひとりのこころを守ること。
一人ひとりの可能性を諦めないこと。

それが、よりよい地域と、これからの日本の未来につながっていくと、私たちは信じています。

長々と書きましたが、私が一番伝えたいのは、「私たちがイノベーションを起こす可能性のある人のこころを守ることで、私たち自身も社会、日本、人類、地球に貢献している」ということです。

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