ADHDの過集中 やめられなくなる理由と対策
集中できないはずなのに、止まらなくなるのはなぜか
看護師 山田祥和
ADHD(注意欠如・多動症)は「集中力が続かない特性」だと思われることがあります。ですが、実はその逆の困りごとを抱えている方も少なくありません。ひとつのことに入り込むと何時間も止まらず、気づけば食事も睡眠も飛ばしていた、という状態です。これは「過集中」や「ハイパーフォーカス」と呼ばれます。
集中力がないと言われる特性と、止まらないほど集中してしまう状態。一見矛盾しているようですが、どちらも同じ仕組みから説明できるかもしれません。
過集中とはどういう状態か
過集中とは、興味を引かれた対象に強く没入し、周囲の状況や時間の経過に気づきにくくなる状態を指します。仕事や趣味、ゲーム、調べものなど、対象はさまざまです。
声をかけられても気づかない、空腹やトイレの感覚に気づかない、気づいたら何時間も経っている、切りのいいところで止められない、、、こうした状態が、疲れ果てるまで続いてしまうことがあります。
なぜ止まらなくなってしまうのか
背景には、いくつかの仕組みが重なっていると考えられています。
①注意の「配分」が調整しにくい
ADHDのある方は、注意を必要な場所に適量ずつ配ることが難しい場合があります。興味の薄いことには注意が向かず、逆に興味を引かれたことには注意が集中しすぎてしまう、という両極端が起こりやすいのです。集中力がないのではなく、注意の量を自分で調節しにくい、という捉え方のほうが近いかもしれません。
②今の刺激に強く反応する
脳が「今すぐ得られる刺激や達成感」に強く反応するため、目の前の作業から離れることが難しくなります。
③時間の経過をつかみにくい
時間の感覚がつかみにくい特性が重なると、「まだ少ししか経っていない」と感じたまま、何時間も過ぎてしまうことがあります。
④切り替えそのものに大きな力が必要
いったん入り込んだ状態から別の行動へ移ることには、想像以上のエネルギーが必要です。「あと少しだけ」と思っているうちに、切り替える機会を逃してしまいます。
過集中との付き合い方
過集中は、悪いことばかりではありません。深く取り組めることは強みでもあります。ゼロにする必要はなく、消耗しすぎない範囲に収める工夫ができれば十分です。
自分の意思ではなく、外の仕組みで区切る
時計を見て自分で判断するのは難しいものです。タイマーやアラームを複数回鳴らす、スマートスピーカーに声で知らせてもらうなど、外側から気づかせてくれる仕組みを用意しておくと切り上げやすくなります。
アラームを「終了の合図」ではなく「確認の合図」にする
鳴った瞬間にやめるのは難しいので、「今どのくらい経ったか確認する」ためのものと捉えると、抵抗が少なくなります。
始める前に、終わりの目安を決めておく
入り込んだ後に判断するのは難しいため、始める前に「ここまで進んだら一度離れる」と決めておくほうが現実的です。
物理的に中断せざるを得ない予定を、後ろに置く
人と会う約束や外出の予定を後に入れておくと、自然に区切りがつきます。
過集中の後には、回復の時間を見込んでおく
没頭した後は強い疲労が来ることがあります。その日のうちに別の予定を詰め込まず、休む時間をあらかじめ確保しておくと、翌日への影響が減ります。
食事や水分は、手の届く場所に置いておく
止まれないことを前提に、最低限の補給ができる環境を作っておくのも一つの方法です。完璧に生活を整えようとしなくて構いません。
夜に始めるものと、そうでないものを分けておく
過集中に入りやすい作業を夜に始めると、そのまま睡眠時間が削られてしまいがちです。没頭しやすいと分かっているものは、翌朝に回す、休日に取りかかるなど、時間帯そのものをずらしておくと、生活リズムへの影響を抑えやすくなります。
周囲の人にできること
声をかけても返事がないと、無視されたと感じてしまうことがあるかもしれません。ですが、本人には本当に聞こえていないことがあります。肩を軽く叩く、視界に入ってから話しかけるなど、届きやすい方法を試してみてください。
また、切り上げられないことを責めるより、「何時になったら声をかけてほしい?」と事前に相談しておくほうが、お互いに負担が少なくなります。集中しているところを急に止められると、本人は強い不快感を覚えることがありますが、あらかじめ頼まれていた形であれば受け入れやすくなります。
過集中は、その日の体調や興味の対象によって現れ方が変わり、波があって当然です。生活や仕事に支障が出る状態が続くようであれば、一人で抱え込まず、主治医や医療機関に相談してみることも選択肢のひとつです。止められない自分を責めるのではなく、止まれる仕組みを外側に用意していくことが、日々の消耗を減らす手がかりになるかもしれません。


