うつ病の回復期に焦りが強くなる理由を考えてみた

少し動けるようになった時期こそ、揺り戻しやすい

看護師 山田祥和


うつ病の回復は、まっすぐ右肩上がりに進むものではなく、良くなったり戻ったりを繰り返しながら、階段状に進んでいくといわれています。この「戻る」局面があること自体は自然な経過なのですが、あまり知られていないためか、少し良くなった時期に強い焦りを感じてしまう方は少なくありません。
私が精神科訪問看護の現場で関わってきた中でも、いちばん苦しそうに見える時期は、実は最も症状が重い時期ではなく、動けるようになり始めた回復期であることがしばしばあります。

回復期とはどの時期を指すのか

うつ病の経過は、症状が強く出る「急性期」、少しずつ改善していく「回復期」、安定を保つ「維持期」といった形で説明されることがあります。
回復期は、次のような変化が見られる時期です。
少しずつ体が動くようになる
眠れる時間が増えてくる
周囲のことに関心が戻り始める
先のことを考えられるようになる
一見すると順調に見えるのですが、この時期特有の難しさがあります。

なぜ回復期に焦りが強くなるのか

訪問看護中、徐々に笑顔も目立ち、活動量も増え、客観的によくなってきたように見えても、本人の口から焦燥感を感じている言葉が出ることがあります。

疑問を抱いて調べてみましたが、その背景にはいくつかの事情が重なっているようです。
①動けるようになった分、できないことが目につく
 まったく動けなかった頃は、比べる余裕もありませんでした。少し回復すると、以前の自分や周囲の人と比べられるようになり、「まだこれしかできない」という感覚が生まれます。
②気力の回復と体力の回復にずれがある
 やりたい気持ちが先に戻ってきても、体力や集中力はまだ追いついていないことがあります。このずれが「思うようにできない」もどかしさにつながります。
③周囲の期待を感じ取りやすくなる
 「もう大丈夫そうだね」という言葉が増える時期でもあります。悪気のない一言でも、早く元に戻らなければという圧力として受け取ってしまうことがあります。
④休んでいた期間への後ろめたさが出てくる
 思考力が戻ってくると、休職期間や周囲への負担について考える力も戻ってきます。その結果、自責の気持ちが強まりやすくなります。

現場で伺うこと

「動けるようになったのに、前より苦しい気がします」と話される方は決して珍しくありません。回復しているからこそ生じる苦しさがあるのだと知るだけで、少し安心されることもあります。

焦りとの付き合い方

回復期の過ごし方に正解はありません。無理をしない日があっても、思うように進まない時期があっても構いません。そのうえで、揺り戻しを小さく抑える工夫があります。


回復した力を、一度に使い切らない
 調子のいい日に一気に予定を詰め込むと、その反動で数日動けなくなることがあります。「できる量の七割程度でとどめる」くらいが、結果的に長続きします。
元の生活に戻すことを、当面の目標にしない
 いきなり以前と同じ生活量を目指すと、達成できないことばかりが目につきます。今の状態から少しずつ増やしていく形のほうが、現実に合っています。
比べる相手を「過去の自分」にしない
 半年前の自分ではなく、一週間前の自分と比べてみてください。小さな変化のほうが、実際の回復を捉えやすくなります。
調子が戻った日ほど、休息を意識して残しておく
 動ける日に休むのは難しいものですが、意識的に余力を残しておくことが、次の日を守ることにつながります。
戻る日があっても、振り出しに戻ったわけではない
 階段状に進む以上、下がる日は必ずあります。その一日で全体を判断しなくて大丈夫です。
生活のリズムを整えることを、先の目標にする
 仕事や勉強にどう戻るかを考える前に、起きる時間や食事の時間をゆるやかに保つところから始めるほうが、体力の回復にもつながりやすくなります。厳密に守る必要はなく、だいたいの時間帯が定まっていれば十分です。

家族や周囲にできること

「良くなってきたね」の後に、期待を続けない
 励ましのつもりの一言が、本人には次の課題として響くことがあります。変化を認めるところで止めておくほうが、負担になりにくいです。
復帰の時期を、周囲が決めない
 仕事や学校への復帰は、本人の状態と主治医の判断が中心になります。周囲の焦りをそのまま伝えないよう気をつけたい部分です。
調子の波を、前提として共有しておく
 良い日と悪い日があることをあらかじめ知っておくと、揺り戻しの日に双方が動揺しにくくなります。「昨日はできたのに」と口に出さずにいられるだけでも、本人の負担はずいぶん軽くなります。
回復期の長さや進み方には大きな個人差があり、数か月で落ち着く方もいれば、年単位で少しずつ変わっていく方もいます。焦りが強く続く場合や、気分の落ち込みが再び強まった場合もあるかもしれません。しかし、早く戻ろうとしないことです。それが結局はいちばん確かな戻り方になるかもしれません。

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