頓服を飲むタイミングが分からないとき
「まだ我慢できるかも」で迷ってしまう方へ
看護師 山田祥和
「持ってはいるんですが、どのタイミングで飲めばいいのか分からなくて」
「癖になったら怖いので、できるだけ飲まないようにしています」
「結局いつも我慢して、後になってもっと早く飲めばよかったと思うんです」
不安症やパニック症、統合失調症、うつ病や双極症などなどで頓服薬を処方されている方から、よく聞く言葉です。決まった時間に飲む薬と違い、頓服は飲むかどうかの判断が本人に委ねられます。その分、迷いが生まれやすい薬でもあります。
飲んだ方がいいサインなど、数値化できればいいのですが、現状難しいです。
なぜ「飲むタイミング」で迷ってしまうのか
癖になるのではないかという心配
薬に頼りたくない、依存してしまうのではないか、という不安から、飲むことをためらう方は少なくありません。この心配自体はもっともなことですし、どのような薬をどう使うかは主治医の判断によって異なります。ただ、心配を一人で抱えたまま自己流に我慢を重ねるより、その不安をそのまま主治医に伝えて相談するほうが、結果的に安心して使えるようになることが多いように思います。
お薬がよく効く不安もたくさんあります。
我慢できたほうが偉い、という感覚
飲まずに済んだ日を「よくできた日」、飲んだ日を「負けた日」と感じてしまう方もいます。ですが、頓服はつらさを軽くするために処方されているものです。使うことは、頑張りが足りなかったという意味ではないかもしれません。
効いているのかどうかが分かりにくい
不安の波はもともと上がったり下がったりするため、薬のおかげで落ち着いたのか、時間が経って自然に落ち着いたのかが分かりにくいことがあります。手応えがつかめないと、次に飲むかどうかの判断もますます難しくなります。
周囲の何気ない言葉が、判断を揺らす
「薬に頼らないほうがいい」「気の持ちようでなんとかなる」といった言葉を一度でも受け取っていると、飲もうとするたびにその声が頭をよぎることがあります。悪気のない一般論であっても、迷っているときには重く響いてしまうものです。処方を受けているのは自分であって、判断の材料は主治医との間にあるのだと、切り分けて考えてよいのだと思います。
我慢しすぎると起こりやすいこと
限界まで待ってからでは、実感しにくくなる
不安が最も高まりきってから飲むと、落ち着くまでに時間がかかり、飲んだ意味を感じにくくなることがあります。そのため主治医から、早めのタイミングで使うよう説明を受けている方もいます。どのくらいの時点で使うのがよいかは人によって違いますので、自分の場合はどうかを確認しておくと迷いが減ります。
「飲まずに済ませること」が目的になってしまう
我慢することに意識が向きすぎると、外出を減らす、予定を断るなど、不安を感じる場面そのものを避けるようになることがあります。飲まずに済んだとしても、生活の幅が狭くなってしまっては本末転倒かもしれません。何を大事にしたいのかという視点で考えてみてください。
主治医とあらかじめ決めておきたいこと
どういう状態のときに飲むかを、言葉にしておく
「つらくなったら」という基準は、その場になると判断が難しいものです。動悸が始まったとき、電車に乗る前など、自分によくある場面を挙げて、そのときどうするかを具体的に相談しておくと、迷う時間が減ります。
一日の上限と、飲む間隔を確認しておく
どのくらいまで使ってよいのか、次に飲むまでどのくらい空けるのか。この二つが分かっているだけでも、不安がずいぶん減ります。処方の内容によって異なりますので、必ず主治医や薬剤師に確認してください。自己判断で量や回数を増やすことは避けたほうがよいと思います。
飲んだ記録を残して、次の受診で共有する
いつ、どんな場面で飲んだかを短くメモしておくと、自分がどういうときに必要としているのかが見えてきます。診察の場でも伝えやすくなり、処方を調整する際の手がかりにもなります。
持っているだけでも助けになることがある
お守りとしての役割
実際には飲まなくても、鞄に入っているというだけで安心し、結果的に使わずに過ごせたという方もいます。いざとなれば対処できるという感覚そのものが、不安を小さくしてくれるのかもしれません。持ち歩いているのに飲んでいないことを、無駄だと感じなくて大丈夫です。
ただし、持っていることが「絶対に手放せないもの」になってしまい、忘れた日に外出そのものができなくなるようであれば、その状態も含めて主治医に伝えておくとよいかもしれません。お守りとして支えになっているのか、それがないと動けなくなっているのか、線引きは難しいものですが、困りごととして共有しておく価値はあります。
家族や周囲にできること
飲むことを責めたり、急かしたりしない
「また飲むの」という一言は、本人がすでに感じているためらいを強めてしまいます。反対に「早く飲みなよ」と急かすことも、判断を委ねられている本人にとっては負担になります。どちらの方向にも誘導せず、本人が決めたことを受け止める姿勢が、いちばん支えになるように思います。
頓服との付き合い方は、その人の症状や処方の内容によって大きく変わります。飲みすぎが心配なときも、我慢しすぎて苦しいときも、まずは主治医に率直に伝えてみてください。使い方に迷いがあること自体は、よくあることです。飲む日があっても、飲まない日があっても、どちらでもいいのだと思えるようになると、薬との距離感は少しずつ楽になっていくかもしれません。


