物が捨てられないのは片付けが苦手だから?

―捨てなきゃと分かっているのに、手が止まるとき―

看護師 山田祥和


捨てなければいけないと分かっているのに、手に取った途端に迷いが生まれて、結局また元の場所に戻してしまう。そんな経験はありませんか。

私自身もそうですが、ご利用者さんの中にも、部屋が片付かないことを気にしている方は少なくないです。そしてその中には、自分は怠け者だ、だめな人間だ、と口にされる方もいらっしゃいます。
ですが、片付けが進まない理由は一つではありません。どこでつまずいているのかが分かると、取れる手立ても変わってきます。

本日は片づけについて書いていきます。

「片付けられない」と「捨てられない」は違う

段取りの段階でつまずいている場合

どこから手をつけるか決められない、途中で別のことに気を取られる、始めたものの最後まで続かない。こうしたつまずきは、手順を組み立てたり注意を保ったりする働きと関係していることがあります。ADHD(注意欠如・多動症)の特性がある方では、物を捨てることに抵抗はないのに、作業そのものが進まないという形になりやすいようです。

捨てる判断そのものでつまずいている場合

一方で、作業は始められるのに、一つ一つの物の前で手が止まってしまう方もいます。これは段取りの問題ではなく、「手放す」という決断に強い負担がかかっている状態です。同じ「片付かない部屋」でも、中で起きていることはまったく違います。

ためこみ症と呼ばれる状態

物を手放すことに強い苦痛があり、その結果として生活空間が使えなくなっていく状態は、ためこみ症と呼ばれることがあります。強迫症と近い領域で語られることもありますが、別の状態として整理されています。ここで大切なのは、本人が「捨てたくないほど大事」と感じているのではなく、「捨てることがつらすぎる」と感じている場合がある、という点かもしれません。

なぜ捨てられないのか

「いつか必要になるかも」が強く働く

将来使うかもしれない、捨てた後に困るかもしれない、という考えが強く浮かぶと、手放す判断ができなくなります。実際に困る可能性は低くても、その場面を想像したときの不安が大きいため、持っておく選択のほうが安全に感じられます。

物に安心を預けている

経済的に苦しい時期を経験した方や、大きな喪失を経験した方では、物があること自体が安心の土台になっていることがあります。この場合、物を減らすことは、安心を削られることと同じように感じられます。

判断の量が多すぎて、決められなくなる

一つの物を捨てるかどうかは小さな判断ですが、部屋全体ではその判断が何百回も必要になります。気力が落ちている時期には、この量そのものが越えられない壁になります。

うつ状態で、体が動かないこともある

うつ病の時期には、やろうと思っても体が動かないことがあります。片付けが止まっているのは意欲の問題ではなく、症状のほうが先かもしれません。この場合は、片付けを課題にするより、体調を整えることが先になります。

無理に捨てさせると、かえってこじれます

勝手に処分された経験は、長く残る

良くしてあげようと思って家族が物を処分してしまい、本人が強い怒りや喪失感を抱えることになった、という話を何度も伺ってきました。部屋は一時的に片付いても、その後は誰も家に入れなくなってしまうことがあります。片付けは、本人の同意なしに進めてしまうと、関係のほうが壊れてしまいかねません。

少しずつ進めるための工夫

「保留する箱」を用意する

捨てるか残すかの二択では決められないとき、「今は決めない」という置き場所を作っておくと、手が止まりにくくなります。期限を決めずに置いておいて構いません。決められないこと自体を失敗と考えなくてよいのです。しばらく経ってから見直すと、あのとき手放せなかった物を、意外とすんなり手放せることもあります。

範囲を極端に小さく区切る

部屋全体ではなく、机の上の一角だけ、紙袋ひとつだけ、と範囲を区切ります。終わりが見えるくらい小さくするのが大事で、小さすぎて意味がないと思うくらいでちょうどいいかもしれません。

捨てるのではなく、戻すことから始める

手放す判断を伴わない作業から入ると、動き出しやすくなります。使った物を元の場所に戻す、同じ種類の物を一か所に集める。それだけでも生活のしやすさは変わります。

生活の安全に関わる場所を優先する

すべてを片付けなくても構いませんが、火を使う場所の周り、通路、寝る場所の近くは、安全に関わります。ここだけは確保しておけると安心です。逆に言えば、そこが確保できているなら、他の場所が散らかっていてもいいのだと考えてよいのではないかと思います。きれいな部屋を目指すことと、安全に暮らせることは、別の目標です。

家族にできること

量ではなく、困っていることから話す

「こんなに溜めて」と量を指摘しても、本人は責められたと感じるだけで終わってしまいます。足元が歩きにくい、探し物が見つからない、といった本人自身が困っている部分から話すほうが、一緒に考えやすくなります。
片付かない状態が長く続き、生活に支障が出ている場合、背景に治療が必要な状態が隠れていることもあります。衛生状態や火災の危険が心配なときは、本人を責める形ではなく、自治体の相談窓口に相談してみることも選択肢のひとつです。すぐに片付かない日があっても、波があって当然です。進む時期と止まる時期を行き来しながらで十分だと思います。

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