「働くこと」は、実は最高の治療薬かもしれない 社会とつながることが、心の回復を後押しする
看護師 山田祥和
精神科訪問看護をしていると、ご本人やご家族からこんな言葉をよく聞きます。
「まずは病気を治してから働きたい」
「元気になったら仕事を探します」
もちろん、その考え方も間違いではありません。
しかし、20年以上精神科医療に携わってきて感じることがあります。
実は、働き始めてから元気になる人も意外と多いということです。
家にいる時間が長いほど、不安は大きくなりやすい
仕事を辞めて家にいる時間が長くなると、どうしても考える時間が増えます。
ある程度の休息は必要ですが、暇であると色々なことを考えてしまうのです。
「自分は何もできない」
「社会に必要とされていない」
「このまま一生働けないかもしれない」
そんな考えが頭の中をぐるぐる回り、不安や落ち込みが強くなってしまいます。
生活リズムも乱れやすく、昼夜逆転や運動不足、人との関わりの減少など、症状を悪化させる要因も増えてしまいます。

働くことで得られるものは、お金だけではない
仕事には給料以外にも、多くの「治療効果」があります。
昼夜逆転が改善しやすい
体力がつく
人と話す機会が増える
「ありがとう」と言われる経験が増える
社会とのつながりを感じられる
自信が少しずつ戻ってくる
こうした積み重ねが、こころを安定させてくれます。
薬も大切ですが、薬だけでは得られない回復が、仕事の中にはあるのです。
最初からフルタイムでなくていい
「働く」と聞くと、多くの人が正社員やフルタイムを思い浮かべます。
でも、それだけが働くことではありません。
週1回でもいいし、1時間でもいいです。B型作業所でもいいし、地域活動支援センターでもいいです。
タイミーなどの短時間就労から始める人もいます。
「できる範囲で社会とつながる」
それだけでも、大きな一歩です。
働けない日があってもいい
どうしても精神疾患には波があります。これはどうしようもないことです。
調子の良い日もあれば、どうしても動けない日もあります。何故か急に仕事に行きたくなる日もあります。サボりではないのに、行きたくなくなるのです。
だからこそ、「100点の働き方」を目指す必要はありません。
60点でもいい。
40点の日があってもいい。
大切なのは、続けることです。
そして職場の理解と環境です。
無理をして倒れてしまうより、自分のペースで長く社会とつながることの方が、ずっと価値があります。
継続が必要な代えの効かない仕事ではなく、代えの効く休みやすい仕事がいいです。もちろん職場の理解があることが大前提です。

就労は治療のゴールではなく、治療そのもの
「病気が治ったら働く」
そう考える人は多いですが、「働きながら治す」という考え方もあります。
働くことそのものが、治療の一部なのです。
もちろん、無理をして働くことを勧めているわけではありません。
十分な休養が必要な時期もあります。
しかし、少し動ける力が戻ってきたら、社会との接点を持つことが回復を後押ししてくれることは少なくありません。
主治医とよく相談して決めるのがいいでしょう。
私たちの思い
私はこれまで、多くの利用者さんが働き始めて表情が変わる姿を見てきました。
「おはようございます」と言えるようになった人。
初めて自分のお給料で家族にプレゼントを買った人。
「自分にも居場所がある」と笑顔で話してくれた人。
その変化を見るたびに思います。
就労は、お金を稼ぐためだけのものではありません。
人とのつながりを取り戻し、自分らしさを取り戻すための、大切なリハビリでもあります。
だから私は今日も、利用者さんと一緒に「その人らしい働き方」を探し続けています。
そして私たちは、より多くの納税者をこの日本に生みたいと思っています。そのお手伝いがしたい考えています。

