希死念慮 「消えたい」「死にたい」と言っているのに、血液データを気にする心理

看護師 山田祥和

「消えたい」
と言っているのに、採血の結果をみて「血糖値は大丈夫だった」「肝機能は少し気をつけよう」と健康を意識している。

「いつ死んでもいいや」
と言いながら、弁当のカロリーや添加物を気にして、これはダメ、あれはダメと品定めしている。

「もう終わりにしたい」
とオーバードーズしたが、「死んじゃうかもしれない」と自ら救急車を呼ぶ。

「あれ死にたいんじゃないの?」と家族や周囲は疑問を抱くでしょう。

当の本人も、「消えてなくなりたいと思っているのに、こんなことを気にするなんて矛盾していますよね」と苦笑いされることがあります。

しかし、その姿は決して珍しいものではありません。
精神科訪問看護の現場で、このような葛藤を抱えている方に、私は何度も出会ってきました。

本日は、その矛盾が起きる理由について書いていきたいと思います。

「死んでしまいたい」と「健康でいたい」は同時に存在する

「もう生きていたくない」
そう話しながらも、毎朝血圧を測り、ノートにつけ、薬をきちんと飲む。

「人生なんて終わってもいい。」
そう話しながらも、毎月病院に行き、食事に人一倍気を使う。

一見すると、とても矛盾しているように見えますが、この姿は「本当に人間らしい」姿なのです。
人は誰しも、痛いのは嫌だし、苦しむのもイヤなのです。

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「消えたい」「死にたい」の本当の意味


精神科訪問看護を長く行っていると、「消えたい」「死にたい」という言葉が必ずしも「命を終わらせたい」という意味ではないことを実感します。

本当に終わらせたいのは、
終わりの見えない苦しみだったり
眠れない夜だったり
将来への不安だったり
絶望的な孤独だったり
自分を責め続ける毎日だったり
誰にも理解されないつらさだったりです。

そうした「今の苦しさ」であることが少なくありません。
その表現としての言葉が、「消えたい」「死にたい」なのです。

人間には「生きようとする本能」がある


私たちには、生きようとする本能があります。
喉が渇けば水を飲みます。
熱が出れば休もうとします。
転びそうになれば、とっさに手をつきます。
苦しくなれば病院へ行こうとします。
これは意思ではなく、本能です。

だから、「死にたい」と思っていても、体を守ろうとする行動がなくなるわけではありません。
繰り返しになりますが、人は、痛いのは嫌ですし、苦しみたくもありません。

薬を飲むこと。血液データを気にすること。病院に行く事。
これらは決して矛盾ではなく、人間として自然な反応なのです。

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こころは一つではない


私たちは、一つの気持ちだけで生きているわけではありません。
「もう終わりにしたい。」という気持ちがある一方で、「病気にはなりたくない。」という気持ちもあります。

「消えてしまいたい。」と思いながら、「家族には心配をかけたくない。」と思うこともあります。

「死にたい。」と思いながら、「採血の結果は良くなっていてほしい。」と願うこともあります。

どちらも本当の気持ちです。
こころは白か黒かではなく、たくさんの感情が同時に存在しています。
その人のこころの奥には、まだ生きたい気持ちも当然残ってます。

もしその苦しみが少しでも軽くなるなら、「生きてもいいかな」と思えることもあります。

家族や周囲の人間の正しい対応


家族や周りの人は、「消えたい」「死にたい」と言われると、「またか」「いつものことだろ」と軽くあしらってしまうことがあります。

「大変だどうしよう、どうしよう」と振り回されるより、それでいいのです。

ただし、絶対条件として、否定しないこと矛盾をつかないことです。
「どうせ口だけでしょ」、「死にたいと思っているのになんで血液データを気にするの?」

これは本人を傷つけます。消えたい、死にたい気持ちは本心です。本人だって振り回したくて、そう訴えているわけではないのです。本当に「消えてなくなりたい」のです。それは紛れもない真実です。

家族や周りの人間ができることは、その矛盾を広げて、本人に気づきを与えるよりも、「そうだね、辛いね」と小さく頷き、見守っていくことです。それが最大の支援です。

本人たちも「消えたい」「死にたい」をどうにかしてほしいと思っていません。ただ「わかってほしい」のです。

まとめ

消えたい、死にたいは、本心であって、気を引くための言動ではありません。

血液データを気にするのは、本能であって、苦痛を味わいたいわけではありません。

家族や周囲の人ができることは、小さく頷き、わかってあげることです。

本日は普段思っているけど、中々言い難いことを書いてみました。

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