「自分のせいじゃなかった」発達障害と診断され、ほっとした話
看護師 山田祥和
「発達障害と診断されて、正直ほっとしました」
精神科訪問看護をしていると、大人になってから発達障害の診断を受けた方から、この言葉を聞くことがあります。
世間では、「障害」と診断されることはショックなこと、つらいこと、と捉えられることが多いと思います。
もちろん、実際に戸惑いや悲しさを感じる方もいます。
しかし一方で、涙を流しながら、「やっと理由が分かった」、「自分がおかしいわけじゃなかった」、「怠けていたわけじゃなかった」と話される方も少なくありません。
それほどまでに、多くの人が長い間、自分自身を責め続けながら生きてきたのです。
「なんでみんな普通にできるの?」
発達障害のある方は、子どもの頃から周囲とのズレを感じながら育っていることが少なくありません。
例えば、忘れ物が多かったり、整理整頓が苦手だったり、提出物が出せない、時間管理ができない、空気を読みすぎて疲れる、予定変更で頭が真っ白になる、人混みや音がつらい、会話のタイミングが分からない、人と関わるだけで極度に疲弊するなどなど。
こうしたことが続くと、周囲からは、「だらしない」、「やる気がない」、「なんでそんな簡単なことができないの?」、「もっとちゃんとして」と言われるようになります。
本人も最初は、「次こそ頑張ろう」、「迷惑をかけないようにしよう」と思っています。
しかし、頑張っても頑張っても、同じ失敗を繰り返してしまいます。
すると次第に、「自分は人より劣っている」、「自分はダメな人間なんだ」と思い込むようになっていきます。自信がなくなってきます。二次障害を発症する恐れがあります。

実は、人一倍努力している人も多い
発達障害のある方の中には、周囲に合わせるために、ものすごい努力をしている人がいます。
忘れないようにメモを大量に書いたり、遅刻しないよう何時間も前から準備したりする人もいます。
会話の失敗を何度も頭の中で反省したり、人に嫌われないよう常に気を張ったりしています。
一見すると「普通に見える人」ほど、裏ではかなり無理をしていることがあります。
特に大人になると、「社会に合わせなければならない」という意識が強くなります。
仕事や家庭、学校、友人関係、どこでも「普通」を求められるからこそ、必死に頑張るのです。
しかし、その頑張りが長期間続くと、こころも脳も疲弊していきます。
二次障害として、うつ病や不安障害になることもある
過去の記事の中でも、発達障害の二次障害については何度も触れてきていますが、大人になってから発達障害が見つかる方の中には、うつ病や不安障害などをきっかけに精神科につながる方も少なくありません。検査したら発達障害があったなんてことも珍しくありません。
「仕事に行けなくなった」、「人間関係で限界になった」、「突然涙が止まらなくなった」、「頑張っていたのに動けなくなった」
こうした状態になり、診察を受ける中で、「もしかすると発達障害が背景にあるかもしれません」と言われることがあります。
つまり、「怠け」や「性格の問題」だと思っていたものが、「実は脳の特性だった」ということです。
ここで初めて、多くの人が過去を振り返ります。
「全部、自分の性格のせいだと思っていた」
診断後によく聞く言葉があります。
「なんで自分だけできないんだろうと思っていた」
「親にも先生にも怒られてきた」
「努力が足りないんだと思っていた」
「社会人として失格なんだと思っていた」
長年、自分を責め続けてきた人ほど、診断によって安心することがあります。
それは、「できなかった理由」が初めて説明できたからです。
これは「言い訳」ではありません。今まで理解できなかった自分自身に、説明がついたのです。
診断名がつくことで、初めて自分を許せることがある
発達障害という言葉には、まだ偏見もあります。
「障害を言い訳にしている」
「甘えている」
「みんな多少は苦手なことがある」
そう言われることもあります。
しかし実際には、多くの当事者は「楽をしたい」のではありません。むしろ逆です。
普通に生きようとして、限界まで頑張ってきた人が多いのです。
だからこそ、診断を受けた時、「これ以上、自分を責めなくてもいいんだ」と感じる人がいます。
長年、自分に向け続けていた怒りや否定が、少し緩む瞬間なのです。
「もっと早く知りたかった」という声
大人になってから診断を受けた方の中には、
「学生時代に知っていれば」
「もっと早く支援を受けたかった」
「自分の人生、違ったかもしれない」
と話される方もいます。
学校で怒られ続けた経験
職場で失敗を責められた経験
人間関係で孤立した経験
それらを、「全部自分が悪い」と思い込んで生きてきたからです。
中には、自己肯定感が極端に低下し、「自分には価値がない」、「生きていても迷惑をかけるだけ」と思い詰めてしまう人もいます。だからこそ、早い段階で「特性」として理解されることには大きな意味があります。

診断がゴールではない
もちろん、診断を受ければ全て解決するわけではありません。苦手なことが急に得意になるわけでもありません。生きづらさが完全になくなるわけでもありません。
しかし、自分に合った環境を考えたり、無理の仕方を見直したりできます。
休み方を知り、周囲に説明できます。そして、支援も受けられます。
こうしたことができるようになります。そして何より、「自分はダメな人間だから苦しい」から、「発達障害による苦しさがあった」へと、理解が変わります。
この違いは、とても大きいのです。
「普通になれなかった」のではなく、「合わない環境で頑張りすぎていた」
発達障害の方の中には、「もっと頑張れば普通になれる」と思い続けてきた人がいます。
しかし実際には、努力不足ではなく、やり方や環境が合っていなかったことも多いのです。
周囲に合わせるために、自分を削り続けてきた。
だから疲れ切ってしまった。診断を受けてほっとする人がいるのは、病名が嬉しいからではありません。
「自分を責め続けなくてよかった」
そう思えたからなのだと私は思います。

