双極症の軽躁状態を家族が見逃してしまう理由 「調子が良さそう」に見えるときこそ、気をつけたいこと

看護師 山田祥和


「最近、急にやる気が出てきたみたいで安心してたんです」
「よく喋るし、外にもどんどん出かけるようになって、良くなったのかと思ってました」
「まさか、あれが病状のサインだったなんて思いもしませんでした」


精神科訪問看護の現場で、双極症(双極性障害、いわゆる躁うつ病)のご家族からよく聞く言葉です。軽躁状態は「元気になった」「調子が良くなった」と、良い変化として受け止められてしまうことが少なくありません。それは、ご家族が鈍いからでも、注意不足だからでもないかもしれません。

なぜ軽躁状態は「良い変化」に見えてしまうのか

軽躁状態には、周囲からすると好ましく映りやすい特徴がいくつかあります。
①活動的でエネルギッシュに見える
 睡眠時間が短くても平気そうにしている、次々と新しいことに手をつける、といった様子は「元気になった」という印象を与えやすいものです。
②口数が増え、話が弾んで見える
 普段より社交的になり、会話も活発になるため、周囲は「気分が明るくなって良かった」と感じやすくなります。
③本人も「絶好調」だと感じている
 軽躁状態にある本人は、自分自身の変化に違和感を持ちにくいことが多く、「今が一番調子いい」と話すこともあります。本人が困っていない様子だと、家族もそれ以上気にかけにくくなります。
④うつ状態の記憶と比べてしまう
 これまでうつ状態でつらそうにしていた姿を見てきた家族ほど、「あの頃に比べたら今は全然いい」と感じやすく、軽躁の変化を「回復」だと受け取ってしまうことがあります。
うつ状態のように「つらそう」「元気がない」というわかりやすいサインがない分、軽躁状態は「病状の波」として認識されにくいのかもしれません。むしろ「やっと本来の調子に戻ってくれた」と、家族自身も安心してしまいやすい時期だといえます。

訪問看護の現場でよくある場面

ジムに通いだす

資格の勉強を始める

友人の量が増える

SNSで発信を始める

仕事を探す

習い事を始める

ご家族も「元気になってよかった」「趣味が増えてよかった」と感じます。しかし、数週間後、本人は疲れ果てて動けなくなり、うつ状態に切り替わってしまうこともあります。

振り返ってみると、睡眠時間が極端に短くなっていたことや、次々と新しい計画を立てては途中でやめてしまっていたことが、後から見ると軽躁状態のサインだったと気づかれます。

家族が気づくためのポイント

軽躁状態かもしれないと気づくためには、「機嫌が良いかどうか」ではなく、いくつかの具体的な変化に目を向けることが助けになります。

・よく食べる。でも太らない
・交友関係が増える。昔の友人に連絡を取り始める
・睡眠時間が急に短くなっているのに、本人は平気そうにしている
・普段より買い物や約束事が増え、計画が次々と広がっていく
・話すスピードが速くなり、話題があちこちに飛びやすくなる
・些細なことでイライラしやすくなる、あるいは気が大きくなる
・金銭感覚がいつもより大胆になり、大きな買い物や契約を急に決めてしまう
これらは「性格が明るくなった」のではなく、体調の波のサインである場合があります。ひとつだけでは判断がつきにくくても、複数が同時に、しかも急に現れているときは、注意しておきたい変化かもしれません。大切なのは、良し悪しで判断するのではなく、「いつもの本人」と比べてどれくらい急な変化かという視点を持つことです。

見逃さないために、日頃からできること

家族が「元気そうで良かった」と感じること自体は、決して間違いではありません。ただ、次のような工夫をしておくと、変化に気づきやすくなります。


・睡眠時間や生活リズムを、さりげなく日々の会話で確認しておく
・普段の様子とのちょっとした違いをメモしておく
・「最近、予定が増えてない?」など、責めるのではなく興味を持って聞いてみる
・気になる変化があれば、本人を問い詰めるのではなく、主治医に伝えるタイミングとして共有する


無理に本人の行動を止めようとすると、かえって関係がこじれてしまうこともあります。「そんなに予定を詰め込んで大丈夫?」と頭ごなしに止めるより、「最近忙しそうだけど、眠れてる?」と、生活のペースそのものに目を向けて聞いてみる方が、本人も受け止めやすいことがあります。「良い変化」に見えるときこそ、少し立ち止まって様子を見る視点を持っておくことが、次にうつ状態へ大きく振れてしまうことを防ぐ手がかりになるかもしれません。


軽躁状態への気づきは、本人よりも周囲の人の方が先に感じ取れることが多いといわれています。「言っても仕方ない」「せっかく元気なのに水を差したくない」とためらう気持ちもあるかもしれませんが、変化に気づいた時点で記録しておくだけでも、後から主治医に相談する際の手がかりになります。違和感があれば、一人で抱え込まず、主治医や医療機関に相談してみることも選択肢のひとつです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA