統合失調症の陰性症状が怠けに見える理由
意欲が出ないのは、症状かもしれません
看護師 山田祥和
「幻聴は落ち着いたのに、今度は何もする気が起きなくなりました」
「一日中横になっていると、家族から怠けていると言われてしまいます」
「前は好きだったことも、今は何も面白いと感じられません」
統合失調症のある方からよく聞く言葉です。こうした状態は「陰性症状」と呼ばれ、統合失調症の症状のひとつとして知られています。意欲が出ないのは、本人が怠けているからでも、性格が変わってしまったからでもないかもしれません。
陰性症状とはどういうものか
統合失調症の症状は、大きく「陽性症状」と「陰性症状」に分けて説明されることがあります。陽性症状は、幻聴や妄想など、本来はないものが現れる症状です。一方の陰性症状は、本来あったはずのものが乏しくなる症状を指します。
具体的には、次のようなものが挙げられます。
意欲がわかず、行動を起こしにくくなる
感情の動きが乏しくなり、表情が変わりにくくなる
人と関わることへの関心が薄れる
会話の言葉数が少なくなる
陽性症状のように目に見えて激しい変化ではないため、周囲から気づかれにくいのが特徴です。
利用者さんの中には、陽性症状より陰性症状の方がつらいと言われる方の方が多いです。
なぜ「怠け」と誤解されてしまうのか
陰性症状が誤解を招きやすい理由には、いくつかの事情が重なっています。
①症状が「していないこと」として現れる
幻聴のように「何かが起きている」のではなく、「動かない」「話さない」という形で現れるため、症状というより本人の姿勢の問題に見えてしまいます。
②本人が困っている様子を見せにくい
感情の表出そのものが乏しくなるため、つらそうに見えないことがあります。実際には本人も「動けない自分」に苦しんでいることが少なくありません。
③陽性症状が落ち着いた後に目立ちやすい
幻聴や妄想が薄れて「良くなった」と思われた時期に陰性症状が前面に出てくるため、周囲は「治ったのにやる気がない」と受け取ってしまいがちです。
④薬の影響や、疲れやすさと重なることもある
服薬による眠気やだるさ、長い療養による体力の低下などが重なると、余計に動きにくさが強まることがあります。気になる場合は自己判断で調整せず、主治医に相談することが大切です。
本人が試せる工夫
陰性症状は、気合いで乗り越えるものではありません。無理に活動量を増やそうとすると、かえって疲れきってしまうことがあります。
活動のハードルを、思いきり下げてみる
「散歩に行く」ではなく「玄関で外の空気を吸う」など、達成できる大きさまで小さくすると、動き出しやすくなります。
楽しめないことを、責めなくていい
以前好きだったことに関心が向かないのは、症状によるものかもしれません。「感じられない自分」を責める必要はありません。
調子のいい時間帯に、ひとつだけ予定を置く
一日にいくつも詰め込まず、動けそうな時間にひとつだけ用事を置いておくと、無理なく生活のリズムを保ちやすくなります。
できた日を基準にしない
動けた日があると「毎日これができるはず」と考えてしまいがちですが、波があって当然です。できない日があってもいいのです。
人と関わる量を、少しずつに留めておく
人付き合いへの関心が薄れているときに無理に交流を増やそうとすると、消耗してしまうことがあります。短い時間だけ会う、一人でいられる時間を確保しておくなど、自分に合った量を探していくくらいで十分です。
家族や周囲にできること
励ますより、まず「症状かもしれない」と捉え直す
「頑張れば動ける」という前提で声をかけると、本人は責められていると感じてしまうことがあります。
小さな変化に目を向ける
起きてきた、少し会話をした、といった変化も、本人にとっては大きな一歩であることがあります。
生活の管理を、すべて肩代わりしない
手伝いすぎると、本人が自分でできる感覚を積み重ねる機会が減ってしまいます。任せられる部分は任せながら、必要なところだけ支える形が続けやすいです。
家族自身の休息も確保する
変化が見えにくい時期が続くと、支える側も疲れてしまいます。良くなっているのか判断がつかないまま日々が過ぎていくのは、想像以上に消耗するものです。一人で抱え込まず、同じ立場の家族が集まる場や支援者に気持ちを話せる機会を持っておくことも助けになります。
陰性症状は回復に時間がかかることが多く、月単位、年単位でゆっくり変わっていくものだといわれています。数週間で変化が見えないからといって、良くなっていないわけではありません。焦らずに関わっていくことが大切ですが、生活のしづらさが強く続く場合や、薬の影響が気になる場合は、主治医や医療機関に相談してみることも選択肢のひとつです。動けない時期を「怠け」と捉えずに済むだけでも、本人と周囲の負担は少し軽くなるかもしれません。

