ギャンブルの負けを取り返したくなる心理
「次で戻せる」が、いちばん手強い考え
看護師 山田祥和
ギャンブルをやめられないのは、勝った時に出るドパミンの大放出(快感)で、脳のバクなどと言われています。ですが私が現場で感じているのは、その一方で、「損を取り戻すという心理」が意外と強いということです。のめり込んでいる方の多くは、儲けたいというより、失ったものを元に戻したいという気持ちで動いています。勝ちたいのではなく、負けたままで終われない。だから、手持ちがなくなるほど深く追いかけてしまうのです。
ギャンブル依存症は、近年はギャンブル行動症とも呼ばれ、意志の強さとは別の仕組みで続いてしまう状態として理解されるようになってきました。
「取り返したい」が止まらなくなる仕組み
負けを追いかける行動
損を出した直後は、その損を打ち消したい気持ちがもっとも強くなります。ここでやめれば損は確定しますが、続ければ取り戻せるかもしれない。この計算が成り立ってしまうため、やめるという選択がいちばん苦しくなります。負けが増えるほど引き返しにくくなるのは、性格ではなくこの仕組みのせいかもしれません。
勝った記憶だけが鮮明に残る
ギャンブルは、たまにしか勝てないからこそ強く記憶に残ると言われています。毎回必ず負けるなら誰も続けませんが、ときどき大きく勝つ経験が混ざると、その感覚が忘れられなくなります。負けた回数のほうが圧倒的に多いのに、思い出せるのは勝った日のことばかり、という状態になります。だからこそ、通算では大きく負けていても、本人の実感としては「あと少しで戻せる」になってしまうのです。
お金が入る日が引き金になる
年金が振り込まれる日や、生活保護費の支給日になると、開店前のパチンコ店に行列ができる店もあると聞きます。身を切るような寒さの朝も、豪雨の日も、列は途切れないそうです。並んでいるのはおおむね顔見知りで、交わされる言葉はたいてい、どの台が出ているか、昨日は何時から並んだか、新しい機種が入ったか、といった話ばかりだと聞きます。お金が心もとないという話や、家に何と言って出てきたのかという話は、その列では出てこないのだそうです。
同じ日の同じ時刻に同じ場所へ人が集まる。これは、意志の弱い人がたまたま一斉に表れているということではないのだと思います。手元にお金が入る日が決まっていて、その日が引き金として働く。そうやって、生活の予定の一部に組み込まれてしまっているのです。
お金が入ったその日に全部すってしまい、どうしようもなくなり、入院したという話もあります。
意志の問題として語られがちですが
やめられないことは人柄とは別の話
借金をしてまで続ける姿を見れば、だらしない人だと受け取られても仕方がない面はあります。けれども、仕事をきちんとこなしている方も、家族を大事に思っている方も、同じようにのめり込みます。生活の他の部分がしっかりしているほど、周囲は理解に苦しみます。
嘘やごまかしは状態の一部として現れる
使った額をごまかす、隠れて借りる、問い詰められるとその場しのぎの説明をする。こうしたことが重なると、家族は人として信じられなくなっていきます。ただ、これらは本人の人格が壊れたのではなく、やめられない状態を続けるために生じている行動だと捉えたほうが、対応を考えやすくなります。
家族がやりがちで実は逆効果になりやすいこと
借金を肩代わりする
目の前の借金を家族が返してしまうと、本人にとっては最悪の結果が回避されたことになります。本人が困りきる手前で毎回助けが入ると、やめる理由のほうが先に消えてしまいます。情として難しいことですが、お金の尻拭いを引き受け続けることは、回復をいちばん遠ざけてしまう関わりだと言われています。
問い詰めて約束させる
二度としないと約束させても、守れなかったときに残るのは嘘を重ねる習慣だけになりがちです。約束を破られた家族も、疑って見張る役回りから抜けられなくなります。
家族がすべてのお金を管理して終わりにする
一時的に有効なことはありますが、管理だけで解決するものではありません。管理する側の負担が大きく、隠れて借りる道が残っている以上、見張り役が先に疲れ果ててしまいます。
家族ができること
責める形ではなくお金の流れを見えるようにしておく
誰がどの口座を使い、どこに返済があるのか。事実を整理しておくと、感情のやり取りから少し距離が取れます。借金が膨らんでいる場合、整理そのものに専門の力を借りたほうが早いこともあります。
家族自身が話せる場を持っておく
ギャンブルの問題は長期戦になりやすく、家族が先に倒れてしまうことも珍しくありません。同じ経験をした家族が集まる場や、当事者の自助グループが各地にあります。本人が動かなくても、家族だけが先につながることはできます。
回復は行き来しながら進むものとして構える
やめられた期間があり、また手を出し、そこからまた立て直す。この行き来を失敗と数えてしまうと、本人も家族も続きません。波があって当然です。一度やめられた期間があった事実は、また手を出したとしても消えません。その期間をどう保てたのかを覚えておくほうが、次に役立ちます。
本人が試せること
引き金になる場面を具体的に書き出しておく
給料日や年金、手当の入る日。仕事で嫌なことがあった日。ひとりで過ごす休日。自分がどんなときに手を出しているのかが見えると、その時間の使い方を先に決めておけます。決意するより、その時間に別の予定を入れておくほうが確実に働きます。
「行かなかった日」を数えてみる
できなかった日ばかりを数えると、気力が削られていきます。行かずに済んだ日を記録するほうが続けやすいかもしれません。一日空いたなら、それは一日分の成果です。
負けを取り返したいという気持ちは、裏を返せば、元の生活を取り戻したいという願いでもあります。その願い自体は、間違ってなどいません。ただ、取り戻す方法としてギャンブルを選ばなくてもいいのだと、少しずつ思えるようになればいい。そう考えられる日が来るまで、何度行き来しても構わないのだと思います。
行列の人たちを見て、私が思うこと
あの行列に並んでいる人たちは、たぶん誰も、お金を増やしに来ているのではないのだと思います。あの時の快感が忘れられない一方で、減ってしまった何かを、取り戻しに来ている。私はそう感じています。だとすれば、必要なのは意志を強くすることではなく、取り戻したいものが何なのかを、ギャンブル以外の言葉で話せる相手を持つことなのかもしれません。


