統合失調症 妄想への声掛けの一例 否定せず安心を与える声かけのコツ
看護師 山田祥和
精神科の病院や訪問看護、地域福祉の現場や家族介護の中では、「妄想への対応が難しい」という声を多く耳にします。
妄想を否定すると、本人にとって“現実”であり、周囲が否定すると関係が悪化したり、不信感が強まることも少なくありません。
反対に肯定すると、妄想が確信に変わります。
そのため、「否定も肯定もしないことが大切です」と教科書には書いてあります。
しかし、否定も肯定もしないとは一体どうすればいいのでしょうか?
否定しないと助長してエスカレートする可能性もあります。肯定しないと孤独感と孤立感を覚え、不安が募ります。
ポイントは共感の中の気づきです。「否定もせず、肯定もせず、巻き込まれず、安心感を与える」です。
本記事では、被害妄想・関係妄想・誇大妄想といった代表的な妄想の種類ごとに、私たちが行っている声かけの例を紹介します。
全てにおいて万能ではありませんが、一例として参考にしてください。

被害妄想への対応
(例:「監視されている」「悪口を言われている」「隣にヤクザが住んでいる」など)
被害妄想は、不安や恐怖を強く感じやすい状態です。否定すると「やっぱり信じてもらえない」と不信感が高まります。当然肯定するとより強固なものになります。
NG例
「そんなの気のせいだよ」「被害妄想だよ」
OK例
「それは怖かったですね。誰かに見られているように感じるのはつらいことですね」
「そう思ってしまうのも無理ないかもね。今は少し安心できるかな?」
「〇〇さんがそう感じているのはわかりました。でも私はそれを確認できていないんだ。どうすれば安心できそうですか?」
ポイントは、本人の感情に共感しつつ、自分の立場をはっきりと伝えることです。
関係性ができているのなら、少しだけ矛盾をつくのも手です。
隣がいつも咳を吹きかけてくるに対して
「何か向こうにメリットはあるんですかね?」
隣のヤクザがピストルを持っているに対して
「毎日朝6時に家を出て、夕方7時に帰って来て、土日休みなんてまるで会社員みたいですね」
関係妄想への対応
(例:「テレビが自分のことを言っている」「近所の人が監視している」など)
関係妄想では、外部の出来事が自分に関連づけられてしまいます。
OK例
「テレビの内容が自分のことに思えたんだね。不安になったのかな?」
「私にはそうは感じられなかったけど、〇〇さんにとっては現実なんですね」
「そういうふうに感じると落ち着かないよね。今、何をしていると安心できそうですか?」
否定せず、本人にとっての“現実”を受け止めながら、不安の緩和につながる行動を一緒に考えるのが有効です。
誇大妄想への対応
(例:「自分は選ばれた存在」「政府が操作している」など)
誇大妄想では万能感や特別感を伴うことが多く、本人にとって心地よい反面、疲弊や現実との乖離が生じやすいです。
OK例
「自分が特別な存在に感じることがあるんですね」
「〇〇さんにしかわからない感覚があるのかもしれないね。しんどくなるときもありますか?」
「すごい力があると感じるんですね。疲れたりしないですか?休めていますか?」
無理に現実へ引き戻そうとせず、体調や休養に話題を移すことで、安心感を与えられます。
興奮や不安が高いときの対応
妄想が強まり、興奮や不安が増すときは、まず落ち着ける環境と安心感が必要です。
OK例
「ゆっくりお話をお聞きします。座りましょう」
「今はとても不安そうですね。そばにいるから安心して大丈夫です」
「一緒にゆっくり深呼吸してみようか」
「今ここにあるものを一緒に確認してみましょう。お茶でも飲みましょう」
安全な“今ここ”を共有する言葉かけが、不安軽減につながります。

妄想に巻き込まれそうなときの対応
支援者自身が妄想の世界に巻き込まれてしまうと、支援が難しくなります。そのため距離を保ちながら関わることが重要です。
OK例
「それについては私にはよくわからないけど、〇〇さんが不安に思っていることは伝わってきます」「そのことを今すぐ調べたりはできないけれど、安心できるよう一緒に考えてみたい」
「私はその情報を持っていないけど、〇〇さんが困っていることには力になりたいと思っています」
「妄想を共有しないが、本人の不安は共有する」姿勢が大切です。
妄想が苦しみになっているときの対応
妄想が本人にとってつらい体験になっている場合、気持ちを受け止めることが最優先です。
OK例
「それが本当かどうかは今すぐにはわからないけど、そう感じている〇〇さんのつらさは伝わってきます」
「どんなに怖かったか、話してくれてありがとう」
「ここでは安心して大丈夫。何かあったらすぐ教えてね」
妄想の事実性よりも“苦しみを理解する”ことを重視しましょう。
妄想対応のポイントまとめ
否定しない:「そんなことない」と言わず、感情を受け止める
肯定しない:「そうだよね、そうだよね」
共感を示す:「怖かったね」「不安だったんだね」
自分の立場をはっきり:「私はそうは感じなかったけど、気持ちはわかる」
巻き込まれない:「私は判断できないけど、不安には寄り添う」
安心を与える:「ここでは大丈夫」「そばにいるから安心して」
気づきを与える:「本当にそうかな?」「どうしてそう思ったの?」
まとめ
妄想を持つ方への対応は、支援者や家族にとって大きな課題です。しかし、「否定せず、巻き込まれず、安心を与える」という原則を意識するだけで、本人の安心感や信頼関係は大きく変わります。
精神科訪問看護以外にもや在宅支援の現場や、ご家族の方にも、ここで紹介した声かけ例を参考にしてみてください。妄想への適切な対応は、本人の回復や生活の安定を支える大切な一歩となります。
対応方法で怒りが助長して大事になることもあります。