特例子会社は障害者や社会のためになるのか? 利用者の声から考えるメリットとデメリット
看護師 山田祥和
はじめに
日本の障害者雇用において、特例子会社は重要な制度です。大企業が障害者を雇用するために設立し、そこで働く障害者の数を親会社の法定雇用率に算入できる仕組みは、企業にとっても社会にとっても一見メリットがあるように見えます。
私たちの利用者さんの中にも、特例子会社に就職した人は数多くいらっしゃいます。
本日はその利用者さんの声を聞きながら、特例子会社のメリット・デメリットを考えていきたいと思います。
訪問看護の現場で耳にする声はさまざまです。
「配慮された環境だからこそ仕事を続けられてありがたい」
「今まで職場が続かなかったけれど、特例子会社なら働き続けられた」
「プライベートが充実する」
「怒られない」
「プレッシャーを感じない」
という肯定的な声がある一方で、
「パソコンができるのにシュレッダー作業しかやらせてもらえない」
「結局は法定雇用率を満たすためだけに雇われている気がする」
「ここでは何の生産活動も行われていない」
「会社をどうしていこうという目標もなく、やりがいを全く感じない」
といった後ろ向きな意見も少なくありません。
では、特例子会社は本当に 社会や本人のためになっているのか?
それとも 生産性や能力主義の観点からは資本主義に反する仕組みなのか?
以下では、メリットとデメリットを多角的に整理していきます。

特例子会社のメリット
障害者本人にとって
安心して働ける場
バリアフリーやジョブコーチの配置など、特性に応じた配慮がある。
就労継続が可能
一般企業では続かなかった人が、安定して働ける例がある。
社会参加の実感
たとえ単純作業でも「働いている」という自己肯定感につながる。
企業にとって
法定雇用率を達成できる
達成できないと納付金を支払わなければならず、その負担を軽減できる。
社会的評価の向上
CSR(企業の社会的責任)の一環として対外的にアピールできる。
社会にとって
障害者の雇用機会を確保
特例子会社がなければ就労の場がなかった人に仕事が生まれる。
社会的コストの削減
障害者が働き収入を得ることで、生活保護や年金依存が減少する可能性がある。
包摂社会の実現に寄与
「誰もが働ける社会」という理念を形にする制度的役割を持つ。
特例子会社のデメリット
障害者本人にとって
能力を活かせない
実力がある人も「シュレッダーや清掃だけ」といった単純作業に偏る。
キャリアの停滞
昇進や挑戦の機会が乏しく、成長を実感しにくい。
数合わせの雇用に見える
「自分は戦力ではなく、雇用率を満たすためだけ」と感じてしまう人もいる。
企業にとって
生産性の低さ
多くの特例子会社は付加価値の低い作業に集中しており、資本主義的には効率が悪い。
コストの負担
設立・運営に費用がかかり、短期的な収益にはつながりにくい。
社会にとって
隔離された雇用の場
障害者が「特例子会社に集められる」ことで、かえって一般就労から遠ざかる懸念がある。
資本主義の原則に反する
実力主義や競争による生産性向上とは逆行し、「保護された枠」での雇用にとどまる可能性がある。
長期的な社会参加につながらない可能性
配慮に偏りすぎると「守られるだけの存在」として固定化し、本当の意味での社会的自立につながらない。
能力主義の観点から見える課題
本来、資本主義社会では「能力に応じた評価」が基本です。
障害者であっても、ITスキルや創造力、専門性を持っている人は多くいます。
しかし特例子会社では、こうした能力が十分に評価されず、
「配慮=単純作業」という構図に陥りがちです。
「配慮しながら能力も発揮できる仕組み」こそが求められているといえます。

今後の方向性:配慮と競争の両立へ
業務の多様化
清掃やシュレッダーだけでなく、IT・デザイン・農業など幅広い仕事を導入する。
親会社との連携強化
特例子会社をゴールではなく、キャリア形成の入り口にする。
能力主義との融合
障害者も成果で評価されるような仕組みを整備する。
これにより、特例子会社は「法定雇用率を満たすための装置」から、社会と本人の双方に価値を生む制度へ進化できるはずです。
まとめ
特例子会社は、
障害者に「安心して働ける場」を与え
企業に「雇用率達成と社会的評価」をもたらし
社会に「包摂の仕組み」を提供してきました。
一方で、
能力発揮の制約
生産性の低さ
資本主義や能力主義との乖離
といった課題も存在します。
結局のところ、特例子会社は 「社会のため」にも「本人のため」にもなる可能性を秘めつつ、現状ではその力を十分に発揮できていない制度です。
これからは、配慮と能力発揮を両立させる方向性に舵を切ることが、本当の意味で社会のためになる特例子会社の姿といえるでしょう。
以上、利用者さんからの話を私が聞きいた、個人の感想です。