認知行動療法で発達障害(ASD)はよくなる? 否定的な自動思考に気づき人間関係を楽にする
看護師 山田祥和
ASDだと被害妄想を抱きやすい?
ASDを抱えていると、相手の気持ちや意図を読み取るのが難しいため、物事を被害的に捉えてしまうことが多々あります。
忙しかっただけかもしれないのに、挨拶されなかった→嫌われた。
疲れていただけかもしれないのに、約束を断られた→嫌われた。
忘れていただけかもしれないのに、LINEの返信がない→嫌われた。
このように、ASDの人は相手の気持ちが分かりにくく、状況を想像することも苦手なため、半分妄想的に捉えてしまうことがあります。
嫌われたのではないか。怒らせてしまったのではないか。そう感じてしまうと、誰だって人間関係に気を遣い、疲れます。生きにくいです。

その結果、社会に自信がなくなり、人間関係が億劫になり、内に引きこもってしまう場合があります。
そんなASDの困難に対して、物事の正しい捉え方に修正できるのでしょうか?
認知行動療法とは
認知行動療法は、「物事の捉え方(認知)」と「反応としての行動」に焦点を当て、困りごとの根本にアプローチしていきます。
たとえば、“友達から返事がこない → 嫌われたかもしれない → 落ち込む” といった考えの流れを見直し、
「本当にそうなのか?」と別の視点から考えてみる練習をしていきます。
自動的に浮かんでくる考えを、ちょっと待てよと一歩踏みとどまる練習をしていきます。
そして、少しずつ“違う選択肢”を持てるようにしていきます。
ASDの自動思考
ASDの方は、相手の表情や行動の意図を読み取るのが苦手なため、学童期のいじめなどの経験からも、下記のような「自動思考(パッと浮かぶ考え)」が否定的・被害的になりやすい傾向があります。
「挨拶されなかった → 嫌われた」
「断られた → 怒っている」
「返信がない → 無視された」
「もしかすると別の理由かもしれない」という可能性に行き届かないのです。
認知行動療法では、こうした自動思考に対して次のようにアプローチします

認知行動療法での支援のポイント
① 否定的な自動思考の“気づき”と“書き出し”
たとえば、「LINEの返信がない」→「無視された」と思ったとき、
「そのとき、頭の中にどんな考えが浮かんだ?」「どう感じた?」と丁寧に書き出して行きます。
② 他の可能性を考える練習
「本当にそうだろうか?」「別の理由があるとしたら?」と問いかけ、現実的な別の解釈を考えていきます。
例:「返信がない → 忙しいだけかも」「体調が悪いだけかも」
③ 行動実験
たとえば「返信が来なかったとき、自分から軽くメッセージしてみる」という行動をとってみて、実際どうなるかを確認します。
思い込みと現実にズレがあった場合、それが“気づき”につながります。
ASDの特性に配慮した認知行動療法では、
①言葉だけではなく、図や表を使って思考を可視化する
②「感情」「思考」「行動」の違いを具体的に教える
③抽象的な話より、具体的な事例を用いた方が効果的
何でもかんでもポジティブ思考に解釈する必要はない
しかし、全てにおいていいように捉えてしまうのは、また問題があります。
本当に嫌がられているのに、きっと忙しかっただけ。
本当に避けられているのに、きっと疲れていただけ。
そのような考えから積極的に関わってしまったら、もっと嫌われてしまいます。
適応可能な認知が大切です。
認知行動療法を行うことによって、無理にポジティブに捉えるのではなく、「現実にはどうか?」を丁寧に見直すことで、少しずつ“他人は敵じゃないかもしれない”という実感が積み重なり、人間関係の緊張もやわらぐ可能性が出てきます。
けれども、認知行動療法を行ったからといって、発達障害(ASD)がよくなるわけではありません。
物事をより正しく捉えることによって、気持ちも楽になりますし、人間関係も広がってきます。
傷つけられるのは人からかもしれませんが、癒されるのも人からです。
実際に、一人でも気軽にできますので、ぜひ生活の中に認知行動療法を取り入れてみてください。