訪問看護でできる認知行動療法──捉え方を変えると生きやすくなる

看護師 山田祥和

同じ出来事でも人によって物事の捉え方は様々です。その捉え方によって気持ちは大きく変わります。

以前書いた記事の例を出すと、大吉で素直に喜ぶのと、大吉を引いてこんなのところで運を使ってしまったと思うのとでは全く気持ちが変わってきます。

この物事の捉え方を適応可能な捉え方に修正すると楽に生きていけます。


リラックスできる場だからこそ気づける

訪問看護は、ただ体調の観察や薬の管理をするだけではなく、利用者さんのこころの「考え方(認知)」や「ふるまい(行動)」にも寄り添うことで、その人らしい暮らしを送る支援ができます。

その手法の一つが認知行動療法(CBT)です。
考え方一つで辛くなったり、楽になったりします。適応可能な考え方であれば人生生きやすくなります。

CBTは「考え方のクセ」に気づき、「できそうな行動」を一緒に考えていくもので、うつ病、不安障害、統合失調症、強迫症、発達障害の二次障害の予防など幅広い疾患に効果があります。

診察室の中だけでなく、「生活の場」である利用者さんの自宅でこそ、その力が発揮されることも多いのです。生活の場で行えるのは訪問看護だけです。

思考と行動にやさしく働きかける──ある女性の例


たとえば、40代女性Aさん。うつ病で長く外出を避けており、「どうせ私なんか誰にも必要とされていない」といった口癖がありました。訪問時は部屋も暗く、ベッドに横になったままのことが多い方です。

Aさんに対し、私たち訪問看護師は「認知」と「行動」の両方に焦点を当てます。

まず、Aさんが「誰にも必要とされていない」と言った時、「それはどうしてそう思うのですか?」とゆっくり問いかけます。すると、「連絡が来ない」「友達はみんな離れていった」という答えが返ってきました。

そこで、「他に、誰か最近声をかけてくれた人はいませんか?」と別の視点を投げかけてみると、「そういえば、妹が週に一度電話をくれる」と思い出されました。

このように、一度で認知を変えるのではなく、小さな「例外」を一緒に見つけることがポイントです。Aさんは少しずつ、「自分は完全に孤独ではない」と感じ始めました。

行動面では、「朝にカーテンを開ける」「週に1度だけ近所を散歩する」といった具体的で無理のない目標を立てます。

看護師が来る日に「一緒に玄関先まで出てみる」といった取り組みから始まり、1ヶ月後には自分から「コンビニまで行けた」と報告してくれました。

こうした日常に即した支援は、訪問看護の柔軟性を活かしたCBTの真骨頂といえるでしょう。

自宅でこそ実感できる変化


訪問看護では「日々の暮らしの中で小さく実践する」ことが可能です。

たとえば、以下のような支援ができます。
• 「できなかったこと」ではなく「できたこと」に目を向ける声かけ

• 不安や落ち込みが強いときに「それが本当かどうか」一緒に整理するノートづくり

• 実際の生活動作の中で、「成功体験」を増やす行動練習(洗濯物干し・外出・料理など)

自宅という安心できる環境だからこそ、利用者の防衛反応が和らぎ、率直な言葉が出やすくなります。

CBTは「考え方のトレーニング」ではありますが、安心感のある人間関係とセットでないと、なかなか効果が出ません。この点で、訪問看護はとても相性が良いのです。

「自動思考に気付いて、認知を修正して、行動を変えてみる」といった、形式化したものだけがCBTではないです。

訪問看護では、話の流れの中でそれとなく認知の修正を促していきます。

訪問看護師にできること


CBTの専門家でなくても、訪問看護師にはできることがたくさんあります。たとえば以下のような関わりは、すべてCBTのエッセンスを含んでいます。

• 「その考え方は事実に基づいている?」と穏やかに問い直す

• 「最近ちょっとでもできたこと」に注目して一緒に喜ぶ

• 行動のハードルを下げて、小さな一歩を支援する(「郵便受けまで行く」など)

また、利用者さんが「できなかった…」と落ち込むときには、「できたこともちゃんとあった」と言葉を添えることで、自分への見方(自己認知)が少しずつやわらぎます。

最後に


訪問看護におけるCBTは、利用者の生活のリアルに寄り添いながら、無理なく取り入れられる治療的アプローチです。「認知に気づく」「行動を一緒に考える」といった基本姿勢を持つだけでも十分に価値があります。

「できることから、少しずつ」この精神こそが、訪問看護で活きるCBTの真髄ではないでしょうか。

訪問看護における認知行動療法は、「特別な技術」ではなく、「日常の中の気づきと励まし」の積み重ねです。病気の有無にかかわらず、誰にとっても「考え方のクセ」や「行動の停滞」は起こり得ること。それを一緒に見つめ、「こうしてみようかな」と思えるきっかけをそっと手渡すのが、私たちの役目です。

物事の捉え方を変えるだけで確実に生きやすくなります。その人らしい暮らしの再出発に、訪問看護のCBT的支援は確かな道しるべになるでしょう。

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