パニック障害との付き合い方──自分らしく生きるためにできること
看護師 山田祥和
パニック障害は、ある日突然やってくる強い不安や身体症状によって、日常生活に大きな影響を与えることがあります。
「また発作が起きるかもしれない」「外で発作が起きたらどうしよう」「発作が起きてこのままどうにかなってしまうのでは」という恐怖は、本人にとって非常につらいものです。

しかし、パニック障害は決して「治らない病気」ではありません。そして、決して自分が弱いから起きるものでもなく、自分が悪いから起きるものでもありません。
ここでは、パニック障害と共に歩む日々の中で、少しでもこころが楽になるような考え方や工夫をご紹介します。私たちの利用者さんが色々工夫されていますのでその方法をご紹介いたします。
1. 「発作=命の危険ではない」と理解する
パニック発作の最中、心拍数が急激に上がったり、心臓が口から飛び出しそうになったり、呼吸がしにくくなったり、めまいや吐き気に襲われたりすることがあります。
「このまま死んでしまうのでは」「気が狂ってしまうのでは」と感じるほどの恐怖に包まれることも珍しくありません。
だけれど、パニック発作そのものが命に関わることはありません。これは医学的にも明らかになっている事実です。発作は一時的なもので必ずおさまります。
発作が起きても、「これはパニック発作だ」「今は怖くても、ちゃんと過ぎ去る」「いつものやつだから大丈夫」「死にはしない、死にはしない」と繰り返し自分に言い聞かせるとよいでしょう。
頭でわかっていても難しいかもしれませんが、少しずつこの“認知”を癖づけていくことが、回復への第一歩です。
2. 安心できる「自分だけの対処法」を持つ 安心スイッチ
発作が起きたとき、ただじっと我慢するのはとてもつらいことです。あらかじめ、自分にとって安心できる行動やアイテムを準備しておくと、パニックに対処しやすくなります。
たとえば:
• 人混みを避けて静かな場所に移動する
• 深くゆっくり呼吸をする(4秒吸って、7秒止めて、8秒吐くなど)
• 耳たぶを軽くさする、手のひらに触れるなど触覚に意識を向ける
• 好きな香りのアロマや、落ち着く音楽を持ち歩く
これらは“安心スイッチ”とも呼べるもので、発作の最中に「自分を落ち着かせる手段」としてとても有効です。訪問看護やカウンセリングの場でも、こうした自分なりの落ち着き方を一緒に探すことができます。
3. 「避けること」が不安を強めてしまうこともある 広場恐怖と予期不安
自分の意思で逃げられない場所で発作が起きたらどうしよう(予期不安)。電車や歯医者や美容室に行けない。人混みに行けない(広場恐怖)。外出もできない。人と会わない。
このように極力外を避けるようになりますが、これは自然な反応で、誰しもそうなってしまいます。しかし、回避を繰り返すことで、次第に「行ける場所」「できること」が少なくなり、かえって不安が大きくなってしまうことがあります。
もちろん、無理をする必要はありませんが、大事なのは、「できた!」という体験を一つずつ積み重ねていくことです。今日は玄関まで行けた、明日は近所のスーパーまで行けた、というように、小さな成功が大きな自信につながっていきます。スモールステップです。

4. 周囲との「分かち合い」が安心につながる
パニック障害は、外からはわかりづらい病気です。だからこそ、信頼できる人に「こんな時はこうしてほしい」と伝えておくことが大切です。
例えば:
• 発作が起きた時は静かにそばにいてほしい
• 外出先では人混みを避けて行動したい
• 体調が悪くなったらすぐに帰れるようにしておきたい
これだけでも、気持ちの負担はぐっと軽くなります。言葉にするのが難しい場合は、手紙やメモで伝えるのもよいでしょう。支援者としても、相手の言葉を受けとめ、否定せずに聞く姿勢が求められます。
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5. 専門家とつながることは「自立への近道」
パニック障害の治療には、薬物療法と認知行動療法(CBT)が有効とされています。特にCBTでは、「発作=危険」という誤った思い込みを修正する手助けになります。
「病院に行くのはちょっと…」と思うかもしれませんが、専門家とつながることで、「一人じゃない」と思えることが大きな支えになります。訪問看護やカウンセリングは、自宅で支援を受けられる手段として活用できます。医療や支援は「依存」ではなく、「自立のための道具」です。
6. 自分を責めない
「また発作が起きてしまった」「いつまでこんな状態なんだろう」…そんなふうに自分を責めてしまう人が少なくありません。でも、それはあなたのせいではなく、病気の症状なのです。
うまくいかない日があっても、「今日は精一杯がんばった」と自分に優しく声をかけることが大切です。自分を認める力は、薬にも負けない回復のエネルギーになります。
おわりに──コントロールできる病気だからこそ、焦らず向き合う
パニック障害は、正しい理解と対応でコントロールすることが可能です。完璧を目指す必要はありません。「発作が起きてもなんとかなる」「うまく付き合える」と思える日を少しずつ増やしていくとよいでしょう。