パニック症に対する暴露療法 発作が起きても「大丈夫」が得られる支援

看護師 山田祥和

パニック症は身体症状からくる不安と、起こるかもしれないという予期不安


パニック症(パニック障害)は、突然の息苦しさや激しい動悸で、「このまま倒れるのでは」「死んでしまうのでは」という強い恐怖を伴う病気です。

そして、「また起こるかも」という予期不安が重なり、外出や人との関わりを避けてしまうようになります。

この回避行動から日常生活に支障が出てきます。

身体の症状を怖がることで不安が強まり、その不安がまた体の反応を引き起こす。不安になることを避けることで日常生活に支障をきたす。

この負のループに入ってしまうのが、パニック症の辛いところです。



暴露療法とは? ― “怖いこと”に少しずつ慣れていく練習


パニック症の治療には薬物療法や認知行動療法など色々ありますが、本日は認知行動療法の暴露療法について話していきます。

暴露療法(エクスポージャー療法)とは、不安や恐怖を感じる状況に少しずつ触れていくことで、不安や恐怖に対して慣らしていくやり方のことです。

トイレの便座に触れても手を洗わない
ドアを閉めても鍵の確認をしない
「怖いけれど安全な状況」を少しずつ体験していき、不安に慣れる練習を繰り返す方法です。

看護師と一緒に、人混みが怖ければ、最初は近所を少し歩いてみる
電車が怖ければ、まずはホームまで行ってみる
といったように、段階を追って「怖い場面」に慣れていきます。

このように少しずつ体験を重ねることで、「怖くても大丈夫」「時間が経てば落ち着く」という体の記憶が育っていきます。

意図的に“発作をつくる”こともある


暴露療法の中には、主治医の指示の元、あえてパニック発作に似た体の状態を再現する練習もあります。

これは「怖い感覚に体を慣らす」ための方法で、
訪問看護のように安心できる環境で行われます。

数秒間、息を止めて息苦しさを感じてみる
早歩きして心拍数を上げてみる
回転する椅子に座って軽いめまいを体験してみる

こうした“わざとドキドキを起こす”練習を行い、
「体が反応しても、命に関わることではない」
「この感覚がきても、自分は大丈夫」
という安心の感覚を体で学んでいくのです。看護師が付き添いますので安心が得られます。

この体験を重ねることで、発作が起きても冷静に対処できるようになります。

注意事項として、決して無理をしてはいけません。闇雲に暴露すればいいというわけではなく、優先順位をつけて、自分が一番簡単にクリアできそうなところから少しずつ挑戦していきます。

訪問看護での関わり ― “安心の伴走者”として


訪問看護では、看護師が安全を確保しながら、「大丈夫」という感覚を育てるお手伝いをします。

発作が起きたとき、一緒に深呼吸して落ち着く練習をする
不安な外出を付き添いながら体験する
怖い感覚を体験したあと、「ほら、ちゃんと落ち着いたね」と振り返る

このような支援を通して、少しずつ「不安があっても大丈夫」という自信を取り戻していきます。

看護師がそばにいることで、「一人じゃない」「怖くても支えがある」という安心感が生まれ、負のループを断ち切るきっかけになります。



負のループを断ち切る“安心の力”


パニック症のつらさは、「体が反応 → 怖くなる → さらに体が反応する。さらには予期不安。回避行動。日常生活がままならない。また不安」
という負のループにあります。

暴露療法は、このループを断ち切るための「練習」です。
怖い感覚そのものをなくすのではなく、怖くても落ち着いていられる力をつけていきます。

繰り返しになりますが、目標は「発作をゼロにすること」ではなく、「発作が起きても大丈夫だと思えること」です。

その安心の積み重ねが、やがて外出や人との交流など、失われた生活の楽しさを取り戻す力になります。

“怖いけど大丈夫”を一緒に育てる


パニック症は、「心が弱い」から起こるわけではありません。
身体の“防御反応”が少し過敏になっているだけです。

訪問看護では、その過敏な体の反応を理解しながら、安心を取り戻すお手伝いをしていきます。

少しずつ、「怖いけど、でも大丈夫」
「ドキドキしても、ちゃんと落ち着ける」

その経験を重ねていくことが、パニック症からの回復への第一歩です。

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