ASDの「白黒思考」のメカニズムを考える 人間関係をリセットしてしまう理由
看護師 山田祥和
本日は利用者さんから、「毎日一緒に寝起きをするくらい仲が良かった人とと、何かをきっかけに絶交することがある。どうしてでしょうか」と相談を受けたので、その理由を考えていきたいと思います。
ASDの人の人間関係には、ある特徴的なパターンが見られることがあります。
最初は強く惹かれ、深く信頼していたはずの相手を、ある出来事を境に急に拒絶してしまう。関係が一気に「白から黒」に、「0から100」に切り替わることがあります。「グレー」や「50」はなく、ちょうどいい距離が保てなくなり、最終的には自ら距離を取ってしまうことも珍しくありません。
この現象は、性格の極端さや感情の未熟さではなく、脳の情報処理のメカニズムによって説明できます。

「白黒思考」は感情ではなく判断の仕組み
ASDの「白黒思考」、「0・100思考」は、好き嫌いの激しさではありません。本質は人や状況を評価する際の判断基準の置き方にあります。
ASDの脳は次のような問いを常に処理しています。
この人は安全か。
この人は予測できるか。
この人は信頼しても問題ないか。
この相手に対する安全性の評価は、無意識レベルで継続的に行われています。
信頼が一気に「白から黒」になる理由
相手の言動に一貫性があり、ルールや態度が明確で、言葉と行動が矛盾せず、裏が感じられない。
こうした条件がそろうとASDの脳は、この相手は安全であるという判断を下します。
このとき信頼は徐々に積み上がるのではなく一気に確定します。
黒→グレー→白というグラデーションではなく、一気にスイッチが入る感覚に近いものです。
なぜ信頼は突然ゼロになるのか
問題が起きるのは予測と現実がズレた瞬間です。
昨日と違う態度を取られたとき
距離感が急に変わったとき
曖昧な対応をされたとき
冗談や社交辞令を真実として受け取ったあと
善意の裏に別の意図を感じたとき。
この瞬間脳内の安全評価は急激に書き換えられます。
予測できない。次が読めない。危険かもしれない。
ASDの脳にとって予測不能はそのままリスクを意味します。
そのため信頼は少しずつ下がるのではなく、一気に無効化されます。
これが昨日まで大切だった相手を突然受け入れられなくなる理由です。
「ちょうどいい距離」が成立しにくい構造
多くの人が自然に使っている曖昧な距離感や気分による温度差は、ASDの人にとって高負荷です。
今は近いのか。それとも距離を取るべきか。嫌われていないか。次はどう振る舞うべきか。
これらを常に解析し続ける必要があるため、脳は休まる暇がありません。
結果として、距離が極端に近いか、完全に離れているか、どちらかのほうが安定します。
「ちょうどいい関係」は最も処理コストが高い状態なのです。
距離を取る行動の本当の意味
関係が不安定になり始めたとき、ASDの人が距離を取るのは感情的な拒否ではありません。
再び混乱しないため。
再び傷つかないため。
説明不能な状態に陥らないため。
これは自己防衛としての合理的選択です。
多くの場合、限界まで関係を維持しようとした末に選ばれた行動です。

「白黒思考」「0・100」は欠点ではない
白か黒か思考は中途半端な関係を作れないという特性でもあります。
曖昧な好意を装えない。嘘で距離を保てない。誠実であろうとする。
その分信頼した相手には深く関わり、裏切りと感じたときの衝撃も大きくなります。
メカニズムを理解すると見え方が変わる
白黒思考は修正すべき欠陥ではありません。安全と予測可能性を最優先し、脳の設計によって生じる一貫したメカニズムです。
必要なのは無理に中間を目指すことではなく、曖昧さを減らしてくれる関係を選ぶこと。それは弱さではなく環境を選び取る力です。
ASDの白黒思考は性格の問題ではなく、防衛反応でもあり、構造的な知性の現れとも言えます。


