発達障害 どうして大人になって気付くのか ~社会に出て直面する壁~

看護師 山田祥和

発達障害は生まれながらに持っている脳の特性によって生じるものです。性格の問題や本人の努力不足によって起こるものではありません。

しかし、多くの場合、子どもの頃は「少し変わっている子」「個性的な子」として周囲に受け止められ、特別な支援を受けることなく成長する人も少なくありません。

そのため、大人になるまで自分が発達障害であることに気づかず、社会に出てから初めて困難に直面し、診断を受けるケースも少なくありません。

子どもの頃は「ちょっと変わっている子」で通ることも


発達障害の特性は、子どもの頃から現れています。たとえば、人の話を集中して聞くのが苦手、空気を読むのが難しい、興味のあることに没頭しすぎて周囲の声が耳に入らない、または逆に些細な物音が気になって集中できない、といった特徴があります。

こうした特性は、家庭や学校での生活においても見られますが、周囲が「その子の個性」と受け止めていたり、本人がまだ社会的な責任を求められない年齢であったりするため、大きな問題として扱われないこともあります。

子ども同士の関係は比較的柔軟で、多少コミュニケーションにぎこちなさがあっても「面白い子」「変わった子」として受け入れられることも多いです。

いじめの対象にならず、逆に人気者になったりすることもあります。

そのため、この時点で特性が見過ごされ、成長していく中で本人も特に苦労せずに過ごす場合があります。

大人になってから直面する壁


しかし、社会に出ると状況は一変します。職場では、明確な成果や生産性が求められます。期限までに仕事を仕上げること、優先順位をつけて効率的に作業すること、チームで目標を達成するための協力体制を築くことなど、学生時代とは比較にならないレベルでの組織的スキルが必要になります。

発達障害の特性を持つ人にとって、これらは大きな負担となることがあります。例えば、業務の優先順位をつけるのが苦手で、重要な仕事よりも興味のある細部に時間をかけすぎてしまう。

相手の意図を正確にくみ取ることが難しく、会話のすれ違いが起きる。雑談や飲み会など、非公式な場でのコミュニケーションに疲れ切ってしまう。

こうした状況が積み重なることで、職場での孤立感や自己評価の低下につながります。

二次障害 人間関係のつまずきから診断に至るケース


大人になってから発達障害に気づくきっかけの一つが、人間関係のつまずきです。上司や同僚とのやり取りで「どうしても誤解される」「自分だけうまくいかない」といった経験を繰り返すうちに、強いストレスや抑うつ状態に陥ることがあります。

このような状態が続くと、心身の不調から医療機関を受診することになり、検査や問診を経て発達障害と診断されるケースが増えています。

診断を受けた瞬間、多くの人は驚きと同時に、長年抱えてきた違和感や生きづらさの理由がわかったことで安堵することもあります。

「自分は怠けているわけでも、人より劣っているわけでもなかった」という理解は、自己否定から抜け出すきっかけになります。

発達障害とともに生きるための工夫


診断を受けたからといって、すぐに全てが解決するわけではありません。発達障害は生まれ持った特性であり、完全に消すことはできません。しかし、環境の調整や仕事の進め方の工夫によって、困難を軽減することは可能です。

たとえば、職場での業務を細分化し、チェックリストを活用して進捗を管理する。会議や依頼事項は口頭だけでなくメールやメモで確認する。集中できる時間帯を把握して、重要な作業をその時間に行う。こうした工夫は、本人にとってだけでなく、職場全体にとっても効率向上につながります。

また、公的な障害者雇用制度や就労支援機関を活用することで、理解のある職場環境を整えることも可能です。必要に応じて在宅勤務や勤務時間の調整を取り入れることも、有効な手段となります。

「遅すぎる気づき」ではない


大人になってから発達障害とわかると、「もっと早く知りたかった」「今さらどうしようもない」と感じる方もいます。しかし、気づくタイミングに遅すぎるということはありません。診断を受けた時点から、自分の特性に合わせた生き方を模索することができます。

自分を理解することは、他者との関係性を築くうえでも重要です。これまで「なぜかうまくいかなかった」人間関係も、相手に特性を説明することで誤解を減らせる場合があります。

また、自分に合った働き方を選択することで、無理に合わせるストレスを減らし、心身の健康を保つことができます。

まとめ


大人になってからの発達障害の気づきは、過去の経験を振り返るきっかけになります。それは単なる診断ではなく、これからの人生をより生きやすくするための道標です。発達障害は努力不足や性格の問題ではありません。生まれ持った特性を理解し、それに合った環境や方法を整えることが、社会で自分らしく生きるための第一歩となります。

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