HSPの仕組み 〜「生まれつき」だけでは語れない繊細さの背景〜

看護師 山田祥和

HSP(Highly Sensitive Person)という言葉が広まり、「自分もHSPかもしれない」と感じる人が増えてきました。人の機嫌の変化にすぐ気づいてしまったり、顔色を気にしすぎたり、日常のちょっとした音や光に過敏に反応してしまったり。

それが生きづらさにつながることもあります。

「HSPは生まれつきの気質だ」と言われますが、果たしてそれだけで語れるものでしょうか? 

今回は、HSPという繊細さの背景にある「仕組み」について、発達障害や環境要因と絡めて考えていきたいと思います。

HSPとは何か


HSPとは、アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱した概念で、「生まれつき感受性が非常に高い人」を指します。人口の約15~20%に存在するとされており、決して珍しい特性ではありません。特性であり、病気ではありません。

特徴としては以下のようなものがあります。
些細な刺激にすぐ反応してしまう(音・匂い・明るさなど)
他人の感情に強く影響を受ける
疲れやすく、休息が必要
深く考え込む傾向がある
些細なことでも「自分が悪かったかもしれない」と思いやすい

一見すると、ただ「気が弱い」「神経質」と片づけられがちですが、本人の内側では非常に複雑で濃密な情報処理が行われているのです。


「発達障害」との重なり


HSPとよく混同されるものの一つが「発達障害」です。

特にASD(自閉スペクトラム症)との違いは、以下のような違いがあると言われています。
HSP:他人の気持ちに敏感で、空気を読みすぎる傾向がある
ASD:他人の気持ちを読み取りにくいが故に、過度に空気を読みすぎる傾向がある。

しかし、現実はそんなにきっぱりと分けられるものではありません。発達障害のある人でも、「空気が読めない」ことを何度も経験するうちに、「読めない自分」に強い不安や警戒心を抱くようになり、「もしかしてまた傷つけたのでは」と敏感になることがあります。

つまり、もともと共感性に乏しい状態から、「自分はうまく関われない」「人を傷つけたかもしれない」といった思い込みが強くなり、結果としてHSP的な二次的特徴が現れることもあるのです。

これは、発達障害のある人が環境から受ける「対人トラウマ」のような影響といえるかもしれません。

持って生まれた「神経システムの感度」


HSPは「生まれつきの気質」であるとアーロン博士は説明します。

これは、脳の情報処理の深さや、感覚刺激への反応のしやすさに関係しており、遺伝的な要素も関わっています。たとえば、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の働きに違いがあるとされており、刺激を処理するシステムが他の人よりも「過敏に動いてしまう」仕組みがあるのです。

この感受性の高さは、一種の「個性」であり、芸術や創造、共感的な対人支援などで力を発揮することもあります。一方で、過剰に疲れやすかったり、人といる時間が長いとぐったりしてしまうなど、社会のスピードについていけず苦しさを感じることもあります。


環境要因もHSP的傾向を強める


育った環境もHSP的な傾向を形成するうえで重要な役割を果たします。

たとえば、
厳格な親に育てられた
怒られることが多かった
兄弟姉妹と比較され続けた
いじめや無視といった体験があった

こうした経験によって、「相手の顔色を伺わなければ生き延びられない」「自分が気を配らないと大変なことになる」といった思考パターンが形成されていきます。

その結果、「相手が怒っているかも」「さっきの言い方で気分を害されたかも」といった過敏な対人感覚が習慣化し、HSP的な感受性として定着することがあります。


HSPは「病気」ではない


HSPは診断名ではなく「気質」のひとつです。つまり「病気」ではありません。特別な治療が必要なわけでもありませんが、HSP気質を持っている人がストレスの多い社会で生きていくためには、自分自身を理解し、無理をしない工夫が大切になります。

例えば、
一人の時間を大切にする
できるだけ静かな環境を選ぶ
頑張りすぎない
自分の「疲れのサイン」に気づいて休む

といったことが、HSPと付き合ううえでの鍵になります。

HSPは「弱さ」ではない


HSPは「生まれつきの気質」としての面もあれば、発達障害生育環境によって後天的に強化される面もあります。

そしてその本質は、「感じる力の強さ」にあります。

傷つきやすいということは、同時に「誰かの痛みを見過ごせない」「繊細に物事を感じ取れる」という強みでもあります。

HSPは決して「弱さ」ではありません。その感受性を否定するのではなく、どう付き合っていくかを模索していくことで、自分らしい人生が見えてくるのだと思います。

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