発達障害を抱えながら働くということ 「働きづらさ」と「働きやすさ」
看護師 山田祥和
発達障害を抱えながら働くことは、多くの人にとって大きな挑戦であり、同時に希望でもあります。
支援者として日々さまざまな方と向き合っていると、働くことが単なる労働以上の意味を持つことを強く感じます。
自己理解、環境調整、人間関係、体調管理など、複数の要素が絡み合うため、発達障害のある方にとって就労は非常に負荷の大きい営みとなりやすいのです。
ここでは、支援者の視点から「発達障害と働くこと」について整理し、働きやすさをどう整えていけるのかを考えていきます。

発達障害のある人が職場でつまずきやすい理由
努力不足ではなく、特性と環境のミスマッチが起きている
就労している利用者さんの話を聞いていて感じるのは、仕事のつまずきが本人の努力不足ではなく、特性と環境のミスマッチによって生じているケースがとても多いということです。
曖昧な指示が理解しづらいこと。複数の作業を同時に進めることが難しいこと。雑音や視覚刺激で集中力が低下しやすいこと。スケジュール管理が苦手なこと。感情のニュアンスの読み取りに負荷がかかり、人間関係のストレスが積み重なること。
こうした困難は、本人の性格や頑張りとは無関係で、特性から自然に生じるものです。
しかし職場では「普通はできるはず」「みんなやっている」といった暗黙の基準が存在し、本人が自責感を抱いてしまうことがあります。
支援者として大切なのは、このズレを本人の問題とするのではなく、環境の調整不足として捉え直す視点を持つことです。
支援者ができる「働きやすさの調整」
配慮は特別扱いではなく、その人が力を発揮するための土台
発達障害のある方が働きやすくなるためには、環境調整が欠かせません。本人の困りごとを丁寧に整理し、必要な配慮を職場と共有する役割を担っています。
例えば、作業手順を見える化すること。静かな作業スペースを確保すること。業務を小さな単位に分けて提示すること。休憩のタイミングを調整すること。コミュニケーションの方法を明確にすること。
こうした配慮によって、本人は安心感を持ち、仕事に集中できるようになります。
反対に、環境調整が不十分だと、小さな失敗が重なり、自己肯定感の低下や離職につながりやすくなります。
支援者に求められるのは、「できない点」に注目するのではなく、「できる形に整える方法」を考える視点です。

発達障害のある人が強みを活かして働くために
環境が整えば能力が大きく開花する
発達障害を抱えた方は、転職を繰り返す傾向がありますが、環境が整った瞬間に能力を大きく発揮される方を何度か見てきました。
興味がある分野への集中力が高いこと。正確性や継続力を持っていること。独自の視点で物事を捉えられること。これらは発達障害の特性が強みとして現れる場面です。
しかし、その強みは安全で安心できる環境があって初めて発揮されます。
環境が合ってくると、職場の人とのコミュニケーションもスムーズになり、本人が「ここなら働ける」と実感しやすくなります。
支援者に求められる姿勢
本人の力を信じ、周囲にも理解の土壌を広げる
支援者は本人だけでなく、職場との間に理解の橋をかける役割を持っています。本人の困りごとを整理し、それを周囲にわかりやすく伝えることで、双方が安心して関われる環境を整えることができます。
また、つまずきが起きたときには、本人と一緒に原因を振り返り、再発防止の工夫を考えていきます。成功体験を積んでいくことで、本人の自己効力感は確実に高まっていきます。
支援者は、本人が働くことへの希望を持ち続けられるように伴走し、働き方の選択肢が広がるようサポートする存在です。
発達障害と働く未来
一人ひとりに合った働き方を社会全体で認めていく時代へ
働き方の選択肢は多様化しています。短時間勤務、在宅勤務、段階的なステップアップ、就労支援機関の併用など、さまざまな働き方を認める流れが強くなっています。
発達障害のある方が自分に合った働き方を選べるようになることは、本人だけでなく、職場や社会全体にとっても大きなメリットがあります。理解し合う文化が広がれば、誰にとっても働きやすい環境が生まれるからです。
発達障害を抱えながら働くことは、特別なことではありません。必要なのは、その人に合った環境と、理解して寄り添う人の存在です。
私たちは、その道のりを共に歩き、一人ひとりの働き方が社会に受け入れられる未来をつくる役割を担っています。
環境が合えば、社会に貢献する大きな力を持っている場合があります。


