発達障害 「疲れやすい」の正体――発達特性とエネルギーマネジメント
看護師 山田祥和
「人より疲れやすい」「何もしていないのにぐったりする」発達障害のある方から、よく聞かれる言葉です。
周囲からは「そんなに動いてないのに」「体力の問題じゃない?」と見られがちで、体力をつけるためにウォーキングやマラソンを取り入れてみても向上しません。
以前にもこんな記事を書いていますので、よろしければ参考にしてください
実際にはこの“疲れやすさ”には、発達特性に深く関係する脳のエネルギー消費が隠れています。本日は発達障害と疲れやすさについて考えていきます。
「普通に過ごす」ことがすでに努力
発達障害のある人は、脳の情報処理の仕方が定型発達の人と少し異なります。
音や光、人の声などの刺激を一度にたくさん拾ってしまう(感覚過敏)
相手の表情や言葉の意図を読み取るのに時間がかかる(ASD特性)
注意を切り替えるたびに強い集中力を使う(ADHD特性)
こうした特徴が重なることで、「ただ過ごすだけ」で脳がフル稼働しているのです。
周囲が気づかない「小さな努力の積み重ね」が、結果的に脳の疲労=精神的・身体的な疲れとして現れます。

「人との関わり」もエネルギーを消耗する
発達特性を持つ人にとって、コミュニケーションはときに大きなエネルギー消費源になります。
会話のテンポを合わせる、相手の感情を読み取る、場の空気を察する――
どれも自然にできる人には無意識の作業ですが、特性を持つ人には意識的な努力が必要です。
職場や学校、家庭で「話す」「聞く」「合わせる」を繰り返すうちに、帰宅後は何もしたくないほど疲れてしまうのも無理はありません。
「人と会うだけでぐったりする」「週の後半になると動けない」
そんな声の裏には、“社会の中で生きるために消費した膨大な精神エネルギー”があるのです。
エネルギーマネジメントという考え方
発達特性のある人がより安定して暮らすためには、
「体力をつけるよりもエネルギーの使い方を管理する」ことが重要です。
エネルギーマネジメントとは、自分の心身のエネルギーを「見える化」し、どこで消耗し、どこで回復するのかを把握していく方法です。
たとえば、次のようなステップがあります。
1. 「疲れの原因」を言語化する
「会議で話を聞くだけで疲れる」「雑音が多いと集中できない」
2. 「エネルギーを奪う場面」と「回復する場面」を書き出す
奪う=人混み、電話対応
回復=一人の時間、散歩、音楽
3. 消耗する予定の前後に回復時間を組み込む
午前に人と会う→午後は静かな作業や休憩を入れる
4. 「完璧主義」を緩める
“できないこと”を減らすより、“疲れない方法でできること”を増やす発想へ。
「休日は思いっきり寝る」という方法をとっている人が多いですかね
こうした「自分の取扱説明書づくり」は、疲れやすさを前提にした現実的な生活戦略です。

脳の“燃費”は人それぞれ
発達障害の人の脳は、しばしば「高性能だが燃費が悪い」と表現されます。
注意・記憶・感覚処理などに多くのエネルギーを使うため、周囲から「能力があるのに続かない」と誤解されやすいのです。
大切なのは、“がんばる”より“減らす”こと。
疲れを我慢して頑張るより、消耗を最小限にする工夫が長期的な安定をもたらします。
スケジュールは「7割の力」で組む。ノイズキャンセリングやサングラスで刺激を減らす。定型的なタスクは仕組み化(タイマー、リマインダー活用)
「やらない勇気」を持つなどなど、みなさんそれぞれ工夫されています
疲れやすさを“欠点”ではなく、“特徴”として扱うことで、ようやく自分のペースで生きる土台が整っていきます。
支援者・家族にできること
支援者や家族は、「疲れやすい=怠けている」ではないことを理解することが第一歩です。
エネルギーが切れて動けないときに、責める言葉は逆効果になります。
代わりに、「今日は人が多かったね」「音がうるさかった?」と環境に注目する
「少し休んでからで大丈夫」と“許可”を出す
「どんなときに疲れる?」と一緒に分析する
このように疲労の背景にある特性を共有する関わりが、安心感を生みます。
理解されることで、本人は自分の疲れを受け入れ、対策を立てやすくなるのです。
「疲れやすさ」は自分を守るサイン
発達障害における「疲れやすさ」は、弱さではなく“警告灯”のようなものです。
脳や心が過剰に働いているサインです。
その警告に早く気づき、無理をせず整えることが、結果的に社会生活を長く安定して続けるための最善策になります。
ポイントはエネルギーを「どう増やすか」ではなく、「どう守り、どう配分するか」になります。
疲れやすさの正体を理解することが、“生きづらさ”を“生きやすさ”へ変える第一歩になるはずです。

