うつ病 「必ず良くなる」という常套句 ~言葉より大切な支援者の“向き合い方”~

看護師 山田祥和

支援の現場でよく耳にする言葉

うつ病の方への支援の現場では、「必ず良くなるから」「そのうち元気になるよ」といった言葉が頻繁に使われます。家族や医療職、支援者など、本人を思う人々が良かれと思って発する言葉のひとつです。

しかし、こうした常套句が、必ずしも本人の心に届いていないことも少なくありません。

うつ病の特徴と回復の個人差


うつ病は、気分の落ち込みや意欲の低下、眠れない、食欲がないといった症状が長期にわたり続く精神疾患であり、日本国内では生涯有病率がおよそ15%前後とされています。つまり、身近な病気です。

また、うつ病には回復に時間がかかるという特徴があり、症状の波もあります。調子が良くなったように見えても、再び悪化することも珍しくありません。

個人差も大きく、何もできず寝たきりになってしまう人もいれば、意欲はないものの何とか仕事には行けている人もいます。

「励まし」がプレッシャーになることも


「良くなるよ」支援の現場では、「それ、もう何年も聞いてるけど、全然良くなってない」「良くならない自分はダメなんだと感じてしまう」といった声を聞くことがあります。

こうした反応からも分かるように、「必ず良くなる」という言葉は、時として本人の自己否定感を強めたり、過度な期待にさらされているような感覚を抱かせたりすることがあります。

ではどんな声掛けがいいのでしょうか?

うつ病の方は自己評価が下がりやすく、些細な一言でも深く受け止めてしまうことがあります。意図しないプレッシャーを与えてしまわないよう、言葉選びには配慮が必要です。

支援者に求められる姿勢


厚生労働省の「こころの耳」などの情報でも、うつ病支援においては「無理に励まさない」「回復を急がせない」「本人の気持ちに寄り添う」ことが大切だとされています。

そのため、支援者としては回復を焦らず、成果や変化を求めすぎない姿勢が求められます。「良くなってほしい」という願いは大切ですが、それを一方的に押しつけることのないようにしたいものです。

言葉の代わりにできること


では、励ましの言葉を控えた方がいいのでしょうか。そうでもない場合もあります。「励まさない=何も言わない」ではなく、「伝え方を変える」ことが大切です。

たとえば、
「今はつらいかもしれませんが、また次話しましょう」
「今日は話せただけでもすごいと思います」
「少しずつ、一緒に考えていきましょう」

といった言葉は、評価や期待を含まず、「今ここにいるあなた」に焦点を当てたメッセージです。本人の存在をそのまま受け止め、肯定する言葉こそ、安心感につながります。

本人のペースに寄り添う


うつ病の「回復」は、単に元気に戻ることだけを指すわけではありません。ある人にとっては、仕事に復帰することかもしれませんし、別の人にとっては「家から一歩出られたこと」かもしれません。

つまり、「良くなる」という言葉の意味は人それぞれです。支援者としては、その人が感じている「前進」や「変化」を丁寧にすくい取り、寄り添っていく姿勢が求められます。

「必ず良くなる」も必要な言葉

ここまで、「必ず良くなる」は使わない方がいいと言ってきましたが、実は、人によってはこの「必ず良くなる」を求めている人もいます。

希望を持ちたい思いから、その言葉を信じて待つ人もいます。

絶対にダメではなく、大切なのはその人に合った言葉掛けです。

それは相手の状態や信頼関係、タイミングに強く左右されます。安易な常套句として用いるのではなく、目の前のその人の様子に合わせて、言葉を選ぶことが必要です。

支援者として大切なのは、「どう言うか」ではなく、「どう向き合うか」です。言葉ではなく、関わりの姿勢や関係性そのものが、支援になる場合もあります。

うつ病の支援において、「必ず良くなる」という言葉は、その人にとって焦りや無力感を助長する場合があり、万能ではありません。

しかし、その「必ず良くなる」に希望や救いを求めている人もいます。

だからこそ、私たち支援者は、安易な励ましではなく、本人の声に耳を傾け、その日その時の状態を尊重する関わりを大切にしたいと思います。

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