統合失調症 病識がない場合の家族の向き合い方 〜治療拒否・受診拒否への対応方法〜
看護師 山田祥和
統合失調症では、「自分は病気ではない」と感じてしまう病識の欠如(インサイトの低下) がみられることがあります。
家族や医療従事者、支援者がどれだけ丁寧に説明しても、「病院へ行く必要はない」むしろ「あなたの方がおかしい」など、反発や不信感につながることも少なくありません。
こうした病識の低下は、症状そのものであり、本人の性格や努力不足ではありません。
医療従事者であっても、薬を飲まないなんてことがあったら、「まったく!ダメだ!」とその人を評価してしまいがちです。ですが、病識がないというそのものが、病気の症状です。
ということで、本日は、家族ができる最適な関わり方を考えていきます。家族が困ってしまう「治療拒否・受診拒否」をどのように捉え、どのように関わるべきかは、多くの家庭で大きなテーマになっています。
「息子が病院に行かない」「娘が薬を飲まない」
先日参加した伊勢原市の家族会でも話題に上がっていました。

なぜ「病識がない」状態が起こるのか?
統合失調症は、自分の考え方と現実との境界が曖昧になりやすい病気です。幻聴、妄想、思考のまとまりにくさ、注意力の低下などが生じると、周囲がどれだけ説明しても 自分の感覚のほうが正しいと感じてしまいます。
そのため、幻聴・妄想を事実として体験していたり、周囲の助言が敵意ある言葉に聞こえてきたり、判断力が落ち、危険性が理解できなかったりします。また、家族の心配が攻撃や監視に感じられることもあります。
この状態では、病院受診や服薬治療は脅威のように捉えられ、治療拒否・受診拒否へとつながりやすくなります。
家族がやってはいけないNG対応
病識が低い時期は、本人の世界の枠組みが非常に敏感です。家族の伝え方ひとつで関係が悪化し、治療につながるチャンスが遠のいてしまうこともあります。以下は特に避けたい対応です。
① 正論で説得する
「それは妄想だよ」「病院に行かないと悪化するよ」
これは理屈は正しくても、本人には否定として伝わり逆効果です。
② 怒ったり、声を荒げる
本人の防衛心が高まり、家族を敵として認識しやすくなります。
③ 無理やり連れていく
信頼関係が壊れ、以後の支援が非常に難しくなります。
④ 家族だけで抱え込む
家族が疲れ果ててしまい、危機的な状態に気づけなくなります。
家族ができる「正しい向き合い方」
治療拒否や受診拒否があっても、家族ができることは多くあります。大切なのは、本人の世界の感じ方を尊重しながら、関係性を守ることです。
① 本人の感じている事実を否定しない
幻覚や妄想は本人にとっては現実です。
否定するとかえって苦しみを増やすことがあります。
「それは妄想だよ」と否定するのではなく、「そう感じているんだね。怖かったね」と気持ちに共感します。
事実ではなく感情に寄り添うことがポイントです。
② 病気の話を避け、日常の困りごとに焦点を当てる
病気の話題は抵抗を招きやすいですが、生活上の困り感には反応しやすい傾向があります。
眠れているか
食事がとれているか
不安や緊張はないか
生活で困っていることは何か
例えば、「最近眠れてないみたいだけど、相談できる場所があるよ」と、受診=病気ではなく、受診=生活の相談と伝えると抵抗が減ります。
気持ちの健康相談に行ってみようかと勧めるご家族もいます。
③ お願いベースで受診を提案する
強制よりも、家族の気持ちとして伝える方法が有効です。
「心配だから一緒に医師の話を聞いてほしい」
「あなたの意見も聞きたいから、相談に行ってみない?」
本人の尊厳を守りつつ、自然に受診へつなげることができます。
④ 家族以外の第三者を利用する
関係性が近い家族だからこそ説得が難しいこともあります。
訪問看護、相談支援専門員、地域の保健師、市町村、家族会は、本人の抵抗感を下げながら支援につなげる役割を担います。
専門職は「受診のコツ」を熟知しており、家族が抱える負担を大きく軽減してくれます。
⑤ 危険を感じた場合は、専門機関に早めに相談
以下の状態は、早急な支援が必要です。
自傷や他害の恐れ
食事や水分がとれていない
夜間徘徊が続く
妄想・幻覚が急激に悪化
生活が成り立たない
この場合は、市区町村の障害福祉課・保健所・精神科救急に連絡することで、適切な支援につながります。

家族が疲れないことも支援の一部
統合失調症の家族は、「自分が頑張らなければ」と抱え込みがちですが、家族の疲弊は、本人の状態にも影響します。
家族会で情報収集
支援機関に相談
訪問看護・相談支援を利用
無理のない距離感を保つ
家庭だけで支える必要はありません。
家族が倒れないことが、長期的な支援の基盤になります。
まとめ
病識がないのは 本人のせいではなく、症状そのものです。
家族は病気と闘う相手ではなく、安心できる存在であることが重要です。
否定しない
生活の困りごとに寄り添う
無理な説得はしない
専門職に早めに相談する
これらの積み重ねが、治療拒否・受診拒否をやわらげ、長期的な回復につながります。
繰り返しになりますが、家族だけで抱えず、地域の支援も上手に活用しながら、少しずつ歩みを整えていくといいと思います。


