精神疾患 怠惰に見える生活は「病気」か?「甘え」か? その見分け方と基準
看護師 山田祥和
前回の記事の続きになります。
精神疾患とともに生きる人のサポートをしていると、家族からよく相談されることがあります。
「働かないでゴロゴロしているのは、病気なの?それとも甘え?」
このテーマは非常に繊細ですが、実は多くの場合、
甘えではなく、脳のエネルギー低下による病気の症状で説明できます。
本日は、訪問看護・医療・福祉の現場からみた判断基準を紹介します。

最初に結論から言いますと、ほとんどの場合「甘えではなく、病気の症状」です。
精神疾患があると、脳の働きが落ちるため、
動けない
起きられない
やる気が湧かない
判断ができない
刺激に弱い
といった状態が生じます。
これは意思が弱いのではなく、脳の機能低下による 症状です。
実務で使う「病気か?甘えか?」を見分ける6つの基準
困っている状態で手を差し伸べ過ぎてしまうと、その人の能力を奪ってしまったり、甘えを助長させたりしてしまいます。
何となくでも判断基準があると、支援しやすいです。そこで実際精神科訪問看護の現場で使っている、判断材料を紹介します。
① 「できない」のか「やらない」のか
「やらないといけないのに動けない」
「頭では分かってるけど体が重い」
「気持ちはあるのにできない」
これは病気による意欲低下・思考力低下 です。
逆に「やらなくても困っていない」場合は“甘え”に見えるかもしれませんが、実際には背景に依存関係や家庭構造があることが多いです。
② 生活の “核” が崩れているか
精神科では、以下が落ちると病気のサインと判断します。
睡眠
食事
入浴・衛生
対人交流
生活リズム
甘えでこれらすべてが崩れることは、ほとんどありません。

③ 「以前できていたこと」ができなくなっている
精神疾患でよく起こる現象です。
掃除ができていた → できない
仕事に行けていた → 行けない
趣味を楽しめていた → 楽しめない
これは“機能低下”であり、病気として扱います。
④ 本人が「困っているか」
本人が苦しんでいるなら、それは症状です。
できない自分を責めている
動けないことに罪悪感を抱く
朝起きられず泣く
調子が悪いと不安になる
これは 甘えではなく、病気による苦痛 です。
一方、本人が全く困っていない場合は別のアプローチ(生活習慣、環境調整、家族支援)が必要になります。
⑤ 調子に “波” があるか
精神疾患には必ず波があります。
良い日は動ける
悪い日は動けない
⑥ ストレスで悪化し、安心で改善するか
人間関係トラブル
季節の変わり目
仕事や学校の負荷
睡眠不足
これらで悪化し、落ち着いた環境で少し改善します。
これは典型的な精神疾患の特徴です。
訪問看護の最終判断ポイント
本人が困っている → 病気
本人は困っていないが周囲が困っている → “甘え”に見える構造問題
ただし後者も「甘やかし」「依存関係」「家庭内の役割固定」など、環境要因が原因であることが多く、人格の問題ではありません。
「甘え」と断定するのは危険
精神疾患の“怠惰に見える行動”は、ほぼすべて脳疲労・認知機能低下・意欲障害 の結果です。
本人も苦しんでいるケースが多いです。
そのため、「甘え」ではなく “症状” と捉えて支える方が、回復が早いのは現場で実証されています。
おわりに
これまで「病気か」「甘えか」を考えてきましたが、当然その半分半分という状態もあります。
一概にどちらだと決めつける必要はありません。
一つ言えていることは、意外と人は、他人に負担を掛けたいとは思わないものです。
もし仮に甘えだとしても、「甘えにも理由がある」のかもしれません。その理由を解決してあげるのも支援の一つですね。

