メンタル系の対人支援職はAIに取られるのか? 進化するAI時代に“人間”の価値を問い直す

看護師 山田祥和

近年のAI(人工知能)の進化は、まさに目覚ましいものがあります。文章生成、画像認識、音声解析、そして感情分析に至るまで。

かつては人間だけができると信じられていた領域に次々と踏み込んでいます。私たちメンタル系の対人支援職の分野でも、その変化を強く感じる人も多いと思われます。

感情を取り扱う私たちの仕事は、まだまだAIに取って代わられないだろうと信じられてきましたが、最近のAIの進歩に正直危機を感じています。

半年ほど前に、「AI相談員」という記事を書きましたが、この時は便利なツールだな程度にしか思っていませんでした。

https://note.com/embed/notes/n588101e285d6


少し前までのAIは、精神的な悩みに対して「専門家に相談してください」と機械的に返答することがほとんどでした。しかし今は違います。

相談者の気持ちに寄り添うような言葉を選び、共感を示し、そのうえで具体的で的確なアドバイスまで返してくれるようになりました。

しかも、24時間いつでも対応可能。待たされることもなく、相手を傷つけることもありません。批判も否定もされません。

AIは感情や共感が苦手」と言われてきた常識は、もはや過去のものです。人間が何年もかけて身につける“共感的コミュニケーション”を、AIが数秒で模倣できる時代に突入しました。

こうした状況を目の当たりにすると、「自分の仕事はAIに取られてしまうのではないか」という不安や焦りを抱いてしまうのは私だけでしょうか?



AIの脅威 どこまで人間に近づくのか


AIの強みは、単なる便利さにとどまりません。大量のデータを瞬時に解析し、過去の相談事例や心理学的知見を統合して、個別に最適化した回答を提示できるところにあります。

例えば、
一人ひとりの相談履歴や心の状態を分析し、きめ細かい助言を返す
多言語対応、24時間365日対応が可能
人間が疲れてしまう長時間の傾聴にも飽きずに応じられる
批判や否定をせず、常に一定の距離感で応答できる

こうした点は、時に人間の専門職以上に相談者を安心させることすらあります。

さらに、AIには「感情に巻き込まれない」という特性もあります。人間は相手の話を聞くうちに怒りや悲しみ、共鳴疲労などを感じることがあります。が、AIは決して疲れません。そしてブレません。

私なんかはすぐにその時の気分や思いつきで言うことが変わるのに対して、AIはブレません。

AIが進化すればするほど、「AIの方が相談相手として優秀ではないか」と思うときすらあります。

それでもやっぱり“人間”である理由


ここまでAIの脅威を書いてきましたが、ここからは人間にしかできないことを考えていきます。

五感で読み取る“場の空気”


支援の現場では、言葉以外の無数の情報が飛び交っています。相手の表情、姿勢、声の震え、呼吸の速さ、部屋の匂いや温度…。

こうした細やかな情報を瞬時に統合して、「今この人は本当はどう感じているのか」を察知するのは、人間の直感と経験によるものです。

AIがどれだけ進化しても、現場の“空気”を嗅ぎ取り、臨機応変に対応することはできません。

信頼関係という“時間の積み重ね”


AIがどれだけ共感的な言葉を並べても、それはあくまで“プログラム”です。対人支援職が築く信頼関係は、数回のやり取りではなく、何度も顔を合わせ、ときに沈黙を共有しながら少しずつ育まれていくものです。

「この人だから話せる」「この人だから外に出てみようと思える」という安心感は、画面の向こうのAIには決して生まれません。

社会との橋渡し


私たちは精神科訪問看護師は、相談に乗るだけの仕事ではありません。役所や主治医、相談員などの関係機関との連携したり、地域の居場所や就労先を紹介したり、家族や学校との連絡調整をしたりする“橋渡し役”でもあります。

社会との接点を作り、関係性を調整し、ときには一緒に歩いて道を開いていく。この「身体性」を伴った支援こそが、人間にしかできない部分です。

一緒に笑い、一緒に泣けること


人間同士の関わりには「生きている手触り」があります。冗談を言って笑い合ったり、ときに一緒に涙を流したり、沈黙を受け止めたりすること。

こうした瞬間が、人を回復へと導く力になります。AIは感情を“シミュレーション”することはできますが、共に時間を過ごし、空気を共有することはできません。



AIと私たちが共存する未来へ


AIの進化を恐れる必要はありません。むしろ、AIをうまく使いこなすことで、対人支援職の価値はますます高まります。

事務作業をAIに任せる
記録・報告書作成、情報整理などをAIに任せることで、対人支援職は“人と関わる時間”に専念できます。

知識やデータの活用
最新の心理学的知見や福祉制度情報をAIから得て、それを現場に応用することが可能です。

補完し合う関係
夜間や緊急時にはAIが一次的な相談窓口として機能し、日中には人間がリアルな関わりを持つという二層構造が利用者の安心につながります。

AI時代だからこそ“人と人”の価値を見つめ直す


AIは恐るべきスピードで進化し、相談においても共感的な応答が可能になりました。確かにAIは便利で頼もしい存在ですが、対人支援職が果たしている「人と人とのつながり」「社会との橋渡し」という役割は、決してAIには代替できません。

人間同士が時間をかけて築く信頼、五感で感じ取る微細なサイン、現場での臨機応変な対応、そして社会に実際に同行し接点を作る力。これらこそが、対人支援職の真髄です。

AIにできることはAIに任せ、私たちは人間にしかできない支援を磨き続けること。それが、AI時代を生き抜く対人支援職の道であり、同時に“人が人を支える仕事”の未来をつくる鍵になると思います。

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