家族ができる引きこもり支援 正しい声かけとNG対応
看護師 山田祥和
はじめに
日本では、引きこもり状態にある人が146万人以上存在すると報告されています。かつては若者特有の問題と捉えられがちでしたが、近年は中高年の引きこもり(大人の引きこもり)も増加しており、社会的に深刻な課題となっています。
私たちの利用者さんの中にも、今なお引きこもりの方、元引きこもりの方、家族に引きこもりがいる方など、案外身近にいます。
家族は、引きこもりの当事者がいると、「どう声をかければいいのか」「無理にでも外に出させたほうがいいのか」と悩む方は少なくありません。
支援の仕方を誤ると、かえって本人を追い詰め、症状を悪化させてしまうこともあります。
そこで本日は、家族ができる正しい支援の方法と、避けるべきNG対応について、訪問看護の実際の現場での出来事を交えながら解説します。

引きこもりとは? 定義と背景
厚生労働省の定義では、引きこもりとは「仕事や学校に行かず、家庭以外の人との交流をほとんどせずに6か月以上続けて自宅にいる状態」とされています。
背景にはさまざまな要因があり、
人間関係のトラブル(学校でのいじめ、職場でのパワハラ)
精神疾患や発達障害(うつ病、社交不安障害、ASD、ADHDなど)
進学・就職の挫折体験
家庭環境や社会的プレッシャー
これらが複雑に絡み合うことで、外に出ることが怖くなり、徐々に社会から距離を置いてしまいます。
重要なのは、「引きこもりは怠けではなく、本人にとっては必死の防衛反応」であるという理解です。
家族に求められる基本姿勢
1. 否定せずに受け止める
「いつまで家にいるの?」「働かないとダメだよ」といった言葉は、本人をさらに追い詰めます。
まずは存在そのものを認め、「あなたはここにいていい」というメッセージを伝えることが大切です。
2. 小さな一歩を認める
引きこもりの人にとって、部屋から出る・会話をするといった小さな行動も大きな進歩です。
「顔を見られて嬉しいよ」「話してくれてありがとう」など、些細なことでも認めてあげると自己肯定感が高まります。
3. 本人のペースを尊重する
回復には「家の外に出る」→「近所に出かける」→「短時間の活動に参加する」といったスモールステップの段階が必要です。焦って行動を促すと逆効果になるため、待つ姿勢を持つことが求められます。
4. 家族の安心感を伝える
「無理しなくても大丈夫」「ここにいるだけで安心する」といった言葉は、本人にとって安全基地となり、回復意欲につながります。
家族からかけられて嬉しかった声かけ
「今日はご飯一緒に食べようか?」
「少し顔を見せてくれて嬉しいよ」
「話を聞かせてもらえると助かるな」
「一緒にテレビを見ようか?」
「あなたの存在自体が大切だよ」
これらの声かけは、本人にプレッシャーを与えることなく、安心感と信頼関係を築くきっかけになります。
避けるべきNG対応
家族からされて辛かったこと
1. 他人と比較する
「同級生は働いてるのに」「兄弟はもう結婚してるよ」などの比較は、本人の劣等感を強めます。
2. 強制する
「明日から外に出なさい」「働け!」「今年中に家を出て行くんだぞ」といった強制は、恐怖や反発を招き、家族関係を悪化させます。
3. 無視や放置
「どうせ何を言っても無駄だ」と関わりを避けると、孤立が深まり症状が固定化します。
また「無言のため息」や自分のことでの両親のケンカは本当に辛いようです。
4. 感情的に責める
「迷惑ばかりかけて」「情けない」「金食い虫!」といった言葉は、本人の心をさらに閉ざす原因になります。
家族支援の具体的ステップ
ステップ1:生活リズムのサポート
一緒に食事を取る
就寝・起床時間を少しずつ整える
軽い運動(散歩、ストレッチ)を勧める
リビングで音楽を流す
ステップ2:安心できる会話の習慣
無理に聞き出さず、本人の話を待つ
共通の趣味(テレビ、ゲーム、ニュースなど)を通じて関わる
ステップ3:小さな外出から始める
庭先に行く
ゴミ出しや近所のコンビニに一緒に行く
短時間の散歩を提案する
ステップ4:専門機関につなげる
ひきこもり地域支援センター
市町村の障害福祉課
保健所
精神科・心療内科
デイケア
精神科訪問看護
就労支援サービス
家族会(同じ経験を持つ人と交流できる場)
当事者会

家族だけで抱え込まない重要性
引きこもりの支援は長期戦です。家族の努力だけでは限界があり、ストレスや疲労が蓄積します。
そのため、専門機関や支援団体に早めに相談することが非常に重要です。専門家と連携することで、本人も家族も安心でき、解決への道筋が見えやすくなります。
自分の気持ちを誰かに話すことで楽になります。友人や職場の同僚、親族などに相談できていない家族がほとんどです。一人でまた抱え込んでいます。
まとめ
引きこもりの支援において、家族の声かけや対応は大きな影響力を持っています。
否定せずに受け止める
小さな一歩を認める
本人のペースを尊重する
安心できる言葉をかける
これらを意識することで、本人が少しずつ外に向かう力を取り戻していきます。
一方で、「比較・強制・放置・感情的な言葉」は逆効果となり、状況を悪化させます。
何より大切なことは、家族だけで抱え込まず、誰かに相談し、家族が健康元気であることが、回復への第一歩です。