精神訪問看護でできる認知行動療法とは ~自宅で始められる、やさしい認知行動療法~
看護師 山口楓馨
主治医やPSWから、「精神科の訪問看護があるって聞いたけど、どんなことをしてくれるんだろう?」と悩んでいる方に向けての記事です。
認知行動療法とは?
認知療法・認知行動療法は、認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種です。
認知は、ものの受け取り方や考え方という意味です。
認知行動療法センター/
認知行動療法(CBT)とは|認知行動療法センター認知療法・認知行動療法(CBT)は、認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種です。認知は、ものの受け取りcbt.ncnp.go.jp
一言で認知行動療法といっても、いろいろな技法があります。
ここでは主に使われる8種類の名前をご紹介します。

行動活性化
気力がわかないとき、生き生きとした感じがなくなってきたとき、楽しめないときなどに使えます。
私たちがやる気が出るのは、何かをして「良かった」と思うからです。「良かった」「楽しかった」と思えば、「またやってみよう」と考えるようになります。「行動活性化」というのは、そのようにポジティブになれる行動を無理のない形で少しずつ増やしていって、行動を通してやる気を出していく方法です。¹⁾
アサーション
自分の気持ちを相手に上手に伝えられないときや相手にうまく反論できなかったときなどに使えます。²⁾ 自分も相手も尊重して会話することができます。
認知再構成法
気持ちが沈み込んだとき、不安になったとき、自分を責めてしまうとき、周囲の人に対して不満を感じたとき、孤独感が強くなってきたときなどに使えます。³⁾ コラム法が有効です。(友人に話す流れを書き起こしたようなもの)
リラクセーション法
筋肉を緊張させた後に力を抜くというところにあります。私たちは、リラックスしようとすると、まず筋肉の力を抜こうとしますが、それだと逆に意識して力が入ってしまうことがよくあります。ですから、まず力を入れて、そしてその力を抜いて、力が抜けていくのを体で感じるのが、漸進的筋弛緩法です。⁴⁾
マインドフルネス
不安になったり、気分が落ち込んだりすると、「今」からこころが離れてしまいます。
「なぜあんなことをしてしまったのだろう」と過去を後悔したり、「うまくいかなかったらどうしよう」と未来を案じたりします。そして、寝ても覚めても後悔や不安がグルグルと頭の中を駆け巡るようになってしまいます。このように思考が「反芻(はんすう)」し始めると、思考で作り上げられた悲観的な現実を「本当の現実」ととらえてしまい、気分が沈み、バランスのよい対応がとれなくなり、状況がますます悪化してしまいます。 このような状況に対処するための方法として 近年注目を集めているのが“マインドフルネスmindfulness”です。これは、禅の瞑想などの手法を取り入れた注意力のトレーニング法です。過去や未来でなく、「今」に「意図的」に、「価値判断することなく」注意を向ける練習を通じて、自分の考えや感情に巻き込まれず、現実に適切に対応できることをめざします。⁵⁾
問題解決技法
問題に直面したときには、まず問題を整理して、ひとずつ解決していくようにするはずです。そのときのポイントは、問題をできるだけ細かく具体的にすることと、良いか悪いかは後まわしにして(判断遅延の法則)、できるだけ多くの解決策を考えること(数の法則)です。その中から良い解決策を見つけ出して、計画を立てて問題解決に取り組んでいきます。そのコツがわかれば、これからも問題に上手に対処できるようになります。⁶⁾
エクスポージャー法(暴露反応法)
スキーマの修正
専門的には「スキーマ」と呼ばれるこころのクセを書き換えて、弱点を強みに変える練習をするコーナーです。
自分の性格の良い面を出したいときや性格の良くない面が出過ぎると感じているときなどに使えます。
スキーマというのは、すべての人がもっている考え方のクセで、わかりやすくいうと、性格とか、パーソナリティと呼ばれているものです。性格やパーソナリティを変えることは難しいのですが、欠点のように思える性格も、うまく使えば長所になります。⁷⁾
これらの技法を組み合わせて、気持ちを楽にできるように練習していきます。実際に事例をもとにどんなことをするのかみてみましょう。

私たちは、自分が置かれている状況を絶えず主観的に判断し続けています。
例えば、A子さんになんだかツイていない日があったとします。
買い物に財布を忘れ、帰りは水たまりにハマり、外に洗濯物を干しているのに突然大雨が降ってきた!
すごく元気な時は「まあそういう日もあるよね」と思い、気に留めず過ごすことができました。しかし、気持ちがもともと落ち込んでいるときにそんな日に遭遇すると「私はいつもツイていない。私がだめだからだ」と考え、さらに元気がなくなりました。
このように、起きている事象は同じでも自分の考え方のクセによって捉え方が変わってしまうのです。
もともとのクセもそうですが、強いストレスがかかった時、うつ状態の時など一時的な環境下でも考え方は変わる可能性があります。
また、自動思考(瞬間的に浮かぶ考えやクセのこと)はスキーマの影響を大きく受けるといわれています。
※スキーマ:人間が経験の積み重ねにより獲得する、外界を限られた情報から理解するための枠組みのこと
例:「見捨てられスキーマ」を持っているため、メールや電話の返信が素っ気ないと、嫌われたという自動思考が思い浮かんでしまう。
コグラボ/
心理学におけるスキーマとは?具体例や改善法をわかりやすく解説 丨コグラボ- Cognitive Behavioral Therapy Labスキーマとは、過去の経験によって形作られる価値観のようなもの。本記事では、ネガティブなスキーマの改善に用いる認知行動療法のwww.awarefy.com
自己へのスキーマは特に、うつに強く関係します。
「自分は無能だ」「自分は愛されない」など、物事を認識するうえでなにかしらのスキーマが影響している可能性があります。
認知行動療法では、そうした考え方のバランスを取ってストレスに上手に対応できるこころの状態をつくっていきます。
気持ちが大きく動揺したりつらくなったりした時に自分の頭に浮かんでいた考え(自動思考)に目を向けて、それがどの程度、現実と食い違っているかを検証し、思考のバランスをとっていく方法を練習します。
例えば、
「不安をなくす」ではなく 「不安をやわらげる行動スキルを練習する」 「どんな時に不安を感じるか検討する」など
「苦手な上司に馴れる」ではなく、 「苦手意識について考える」 「上司との上手な話し方を考える」など
「うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/01.pdf
具体的で達成可能な目標を立てて、一緒に練習し考えていきます。
この例の方法だけでなく、序盤で紹介したようなマインドフルネスやアサーション、次回ご紹介するソーシャルスキルトレーニング(社会生活に必要なコミュニケーションや行動を練習する)などを活用し、さまざまな側面から気持ちを楽にする練習をしていきます。
認知行動療法の治療セッションは基本的に30分、6ー20回と言われています。
このほかに利用者様にホームワーク(宿題)をやっていただくことで、訪問以外の時間も治療に生かすことができます。
また、日々困ったことを記録しておいてもらうことで一緒に話し合うときの助けにもなります。
ただ、ホームワークは無理には勧めませんのでご自身のやる気や気持ちを尊重してもらって構いません。
精神訪問看護ではご自宅で上記のような練習をすることができます。
定期的に担当看護師がお伺いすることで継続的なご支援が可能です。
問い合わせからでもぜひ、お気軽にご相談ください。
【引用】1,2,3,4,5,6,7)ここトレ/https://www.cbtjp.net/mindfulness/