統合失調症の「二重見当識」とは何か 〜現実と妄想の二つの世界を同時に生きるこころ〜
看護師 山田祥和
本日は統合失調症の「二重見当識(にじゅうけんとうしき)」について書いていきます。
統合失調症の症状の一つに「二重見当識」という状態があります。これは精神科の臨床ではよく使われる言葉かもしれませんが、一般的にはあまり知られていないかもしれません。
しかし、家族や支援者がこの状態を理解することは、当事者への関わり方を考えるうえでとても重要だと私は考えます。
まず、具体的な例から考えてみます。
ある統合失調症の方が、「自分は神で、この世界を作った創造主だ」といういわゆる妄想を持っています。
しかしその一方で、訪問看護師と会うときにはとても謙虚に接し、普通に会話をします。神的な存在なのに。
音楽も聴きますし、お笑い番組も観ます。銀行でお金をおろし、スーパーで買い物し、カップラーメンも食べます。この世界を作った創造主なのに。
つまり、「自分は特別な存在である」という妄想を持ちながらも、現実の社会生活は普通に営んでいるのです。
このように、妄想の世界と現実の世界の両方が同時に存在している状態を「二重見当識」と呼びます。

二重見当識とは何か
二重見当識とは、前述したように簡単に言うと、現実の理解と妄想の世界が同時に存在している状態です。
通常、人は一つの現実の中で生活しています。しかし統合失調症の方の中には、妄想や幻聴などの体験が強くなることで、現実とは別の世界の認識が生まれることがあります。
それでも現実の理解が完全に失われているわけではありません。
そのため、妄想の世界と現実の社会生活、この二つが同時に存在する状態になります。
「自分は創造主だ」と感じている一方で、「今日はお金が入る日だから、コンビニに行ってお金をおろさないとなー」、「神たちの会議に出た後は、ポテトチップとコーラでM-1をみよう」というように、妄想と現実の両方の世界を行き来しながら生活している状態です。
なぜ二重見当識が起こるのか
統合失調症では、脳の情報処理のバランスが崩れ、現実の認識が不安定になることがあります。
通常の脳は、これは現実、これは想像、という区別を自然に行っています。しかし統合失調症では、幻聴や妄想が非常にリアルに感じられるため、想像や思い込みが現実のように感じられることがあります。
ただし、多くの場合は完全に現実感覚が失われるわけではありません。
そのため、「もしかしたら本当かもしれない」、「でも普通の生活も続けている」というように、現実の理解と妄想の体験が同時に存在する状態が生まれるのです。
矛盾を突いても対立するだけです。
二重見当識の状態で生活はできるのか
二重見当識の状態にある人でも、日常生活を比較的安定して送っているケースは少なくありません。
例えば、買い物に行き、料理をし、掃除して、お風呂に入るといった生活を普通に送っています。中には仕事する人もいます。神という偉大な存在なのに、上司に注意されるなんてこともあり得ます。
一方で心の中では、「自分には特別な使命がある」、「何か大きな意味がある」と感じていることがあります。
このような状態は、外から見ると矛盾しているように見えるかもしれません。しかし本人の中では、それぞれが自然に共存していることが多いのです。
支援者や家族の関わり方
この状態に対して、支援者や家族がどう関わるかはとても重要です。
多くの人は妄想を聞くと、「そんなことはない」、「それは間違っている」と否定したくなります。
しかし、強く否定すると本人は「理解してもらえない」、「誰も信じられない」と感じてしまうことがあります。
大切なのは、妄想を肯定することでも否定することでもなく、本人の体験を受け止めることです。
例えば、「そう感じているんですね」、「そのことを考えると不安になりますか?」といった関わり方が有効です。
訪問看護での関わりが持つ大きな役割
統合失調症の回復には、人とのつながりがとても重要です。現実感を感じることです。
訪問看護では、症状の確認だけでなく、雑談や日常会話を通して安心できる関係を築いていきます。
孤独な状態が続くと、妄想や幻聴の世界に入り込みやすくなります。
二重見当識があったとしても、誰かと話す、安心できる関係がある、現実の会話がある
こうした関係があることで、現実とのつながりを保ちやすくなるのです。訪問看護は、医療的支援だけでなく、社会との接点をつくる役割も担っています。

二重見当識は回復の途中でも見られる
統合失調症の回復は、急にすべての妄想が消えるわけではありません。
多くの場合、妄想の世界が強い状態→二重見当識
→現実理解が強くなる。という過程を辿ります。
そのため、二重見当識は必ずしも悪い状態ではなく、回復の途中で見られることも多い状態です。
もちろん固定化する場合もあります。
まとめ
統合失調症の二重見当識とは、妄想の世界と現実の世界が同時に存在している状態を指します。
例えば、「自分は神の使いだ」と感じながらも、スーパーで買い物をし、銀行でお金をおろし、訪問看護師と普通に会話をするというように、現実の生活を送りながら妄想の体験も存在している状態です。
この状態を理解することで、支援者や家族はより適切な関わり方を考えることができます。
否定するのではなく、安心できる関係の中で現実とのつながりを支えること。
それが、統合失調症の回復を支える大切な関わり方になります。

