統合失調症 妄想への対応方法 「否定も肯定もしない」一体どうする?
看護師 山田祥和
精神疾患を持つ方々の中には、「誰かに監視されている」「悪口を言われている」「隣にヤクザが住んでいる」「自分には特別な力がある」などといった妄想を抱くことがあります。
教科書には「妄想は否定も肯定もしない」と書いてあるが、、、
この症状は、本人の現実感覚に強く根ざしているため、周囲がただ否定しても改善することはほとんどありません。
むしろ、否定的な対応は本人の不安をあおり、人間関係を悪化させることにもなりかねません。家族だとケンカになり、友人や支援者だと信頼関係が壊れます。
なぜなら、本人は信じて疑わないからです。

では、信頼関係構築のため、本人の満足のため、肯定するのはどうでしょう。これは、非現実的なことを確信にしてしまいます。
否定も肯定もしない、ではどうするの?
基本的な姿勢は「否定せず、肯定せず、巻き込まれず、安心を与える」です。
ただし、否定や肯定をした方がいい場合もあります。その人との関係性や、その人の性格、妄想の状態によります。
本人との関係性が構築されており、本人も思い違いかもしれないと思っている状態でしたら、否定するべきです。むしろ否定することで安心する場合もあります。
信じて疑わない場合、他者や自分自身に被害が及ばないのであれば、軽くて肯定してもいい妄想もあります。
例えば、「宇宙と交信できる」という妄想で、特に拡大しそうにない場合、「そうなんだね。すごいね」と肯定もありです。
それ以外の場合は、教科書通り、否定も肯定もしない方がいい無難です。
以下に、家族や支援者がとるべき具体的な対応方法について解説します。
1. 妄想を否定しない
妄想は本人にとって“現実”として感じられているものであり、「それは嘘だ」「そんなことあるわけがない」と否定されると、自分を理解してくれないという思いが強まり、かえって不信感を抱きます。信頼関係が崩れると、家族関係や支援の継続も難しくなってしまいます。
例えば、「誰かに監視されている」と訴える人に対して、
✖️「そんなことあるわけないよ」
○ 「そう感じているんだね。怖かったね」
というように、事実を否定せずに感情に寄り添う姿勢が求められます。あくまで「あなたがそう感じていることはわかる」という立場を取ることが大切です。
2. 妄想に巻き込まれない
妄想に共感しすぎたり、内容に深入りしすぎたりすると、家族や支援者自身が混乱するだけでなく、妄想の強化につながることもあります。本人が「一緒に証拠を探してほしい」「敵を一緒に見つけてほしい」と訴えてくることもありますが、あくまで中立の立場を保ち、事実確認に巻き込まれないようにしましょう。
対応のポイントは、境界線をはっきりさせることです。過度な説明や反論も避け、本人の感情の揺れに寄り添いながらも、妄想の中に入り込まない姿勢を貫きます。
妄想には矛盾がつきものですが、この矛盾をつくのもあまりよくないです。
3. 安心できる環境を整える
妄想は、不安やストレスが高まることで悪化しやすい傾向があります。そのため、本人が安心できる生活環境の構築が重要です。以下のような点に配慮するとよいでしょう。
日常のルーティンを安定させる(毎日同じ時間に起床・食事・就寝)
外部からの刺激を減らす(テレビやネットの過激な情報、騒音)
なるべく静かな、落ち着ける空間を確保する
人間関係のトラブルがある場合には、距離を置く工夫をする
また、家族や支援者が落ち着いた態度で接することも、本人の安心感につながります。焦って対応したり、感情的に反応したりすると、妄想が強まることもあるため注意が必要です。

4. 専門職と連携する
妄想は、本人の努力や周囲の対応だけで改善するものではなく、医学的な治療が必要です。抗精神病薬などの薬物療法や、認知行動療法などの心理的支援が有効であるため、医師や訪問看護師、ケースワーカーなどの専門職との連携が不可欠です。
家族や支援者は、以下のような形でサポートするとよいです。
通院や服薬の継続を見守る(強制せず、提案ベースで)
主治医に状況を伝え、共有する
訪問看護や地域支援サービスの導入を検討する
支援のゴールは妄想を“なくす”ことではなく、「妄想があっても日常生活を穏やかに送れるようにする」ことです。
まとめ
妄想に悩む当事者への対応には、専門的な知識と時間、そして何より根気と冷静さ、辛さへの共感の姿勢が求められます。すぐに解決することを期待せず、まずは安心して生活できる土台づくりを目指すことが大切です。家族や支援者が一人で抱え込まず、地域の支援機関や医療機関とつながりながら、少しずつ歩みを進めていくことが回復への近道です。