訪問看護でも使える「人を動かす三原則」 否定や批判は人を変えない
看護師 山田祥和
自分もそうですが、中々自制するのは難しいものです。ついつい食べ過ぎてしまったり、先延ばしにしてしまったり、わかってはいるけど実践できないものです。
利用者さんの中にも、糖尿病だけど炭酸ジュースばかり飲んでしまう、1日5食カップラーメンで生活している、タバコを1日3箱吸ってしまう、布団が友達になっている、薬を自己調整して入退院を繰り返してしまう、などなどいろいろです。
こちらとしても良くなって欲しいという思いから、ついつい口をすっぱくして言ってしまう傾向があります。(自分も行動できないことが山ほどあるというのに)
良くなって欲しいという思いから、指導や注意、管理すると当然上手くいきません。対立するだけです。訪問拒否につながります。
そこで本日は、デール・カーネギーの『人を動かす』という本の「人を動かす三原則、盗人にも五分の理を認める」という章を紹介します。
これは訪問看護でもとても活用できる技術だと思います。
「盗人にも五分の理を認める」とは、他人を批判も非難もせず、苦情も言わないという姿勢を指します。

批判は人を変えない
人は自分が間違っていると責められると、防衛本能が働き、自らを正当化しようとします。たとえ事実として誤りがあっても、非難されると素直に受け入れることは難しくなり、むしろ反発や恨みを生むことさえあります。
カーネギーはこの原則を通じて、人の行動にはそれなりの理由があることを前提に、相手を理解しようとする姿勢の重要性を強調しています。
行動は悪だけど動機は善
この考え方を象徴する実話として、有名なギャング「ツイスト・エディ」の例が挙げられています。彼は銀行強盗や殺人など数々の犯罪を犯し、社会的には冷酷な悪人と見なされていました。
しかし、彼自身は自分のことを「困っている人を助けるヒーロー」だと本気で信じていたのです。彼にとっての暴力や略奪は、正義の行為だった。つまり、どんなに社会的に間違っているように見える行動にも、本人なりの「理屈」や「正義感」があるということです。これこそが「盗人にも五分の理を認める」という姿勢の核心です。
私たちは日常生活において、無意識に他人の言動を批判してしまうことがあります。たとえば、職場で同僚がミスをしたとき、「なんでこんな簡単なこともできないの?」と非難することは容易です。
しかし、それを言われた相手は、自分を責められたと感じてしまい、次第に萎縮し、信頼関係も壊れていきます。
相手の背景に目を向ける
そんなときこそ、相手の背景や気持ちに思いを巡らせることが大切です。「最近忙しくて疲れているのかもしれない」「慣れない仕事で不安だったのかもしれない」と考えることで、相手への接し方が大きく変わります。
訪問看護の現場でも、利用者さんが糖尿病でジュースばかり飲んでしまうのも、利用者さん本人は十分理解しています。でも飲んでしまうのです。アルコール依存症もそうです、その害については本人も重々承知されています。でもやめられないのです。薬を自己調整するのにも訳があるのです。
どんな行動にもその人なりの理由があるのです。否定や指摘するのではなく、どうすればその行動が改善するかを一緒に考えるのです。

理解と共感が人を動かす
家庭の中でもこの原則は有効です。たとえば子どもが約束の時間に帰ってこなかったとき、「何度言ったらわかるの!」と叱りつけるのではなく、まずは理由を聞く姿勢が必要です。「遅れたことは良くないけど、何があったのか教えてくれる?」というように、まず相手の話に耳を傾けることで、子どもは「理解してもらえた」という安心感を得られ、以後の態度にも変化が生まれます。
カーネギーは、人を変えるために最も無力なのが「批判」であると断言します。批判は短期的には相手を従わせるかもしれませんが、長期的には反感や不信を育ててしまいます。
むしろ、相手の立場や事情を理解しようとすることで、相手の心を開き、関係を改善する糸口が見つかるのです。
この原則を日常に応用するためには、まず「事実」をそのまま受け取るのではなく、「なぜこの人はこうしたのだろう?」という問いを立てることから始めてみるとよいでしょう。そして、相手の行動に対してすぐに感情的に反応するのではなく、一歩引いて、相手の立場や状況に目を向けること。批判する代わりに、まずは相手を受け入れ、共感を示す姿勢が求められます。
「盗人にも五分の理を認める」という言葉には、人の心を動かすためには、まずその人の心に寄り添うことが必要である、という深いメッセージが込められています。表面的な間違いに目を向けるのではなく、その裏側にある「なぜ?」を考えること。
そうした姿勢が、信頼関係を築き、相手に自発的な変化をもたらす第一歩となるのです。
結果として、この原則を実践することは、自分自身の感情をコントロールし、冷静で思いやりのある人間関係を築く力にもつながります。人は誰しも、批判ではなく理解を求めている。その当たり前のことを思い出させてくれるのが、カーネギーのこの第一の原則なのです。
人を変えることはできない。変えたいなら自分を変えろとよく言いますが、カーネギーは、「人を変えたいならまずは人を理解しろ」と言います。