双極症(双極性障害) うつは自覚できるのに、躁は自覚できない?

看護師 山田祥和

訪問看護や地域支援の現場で、双極症の方と関わっていると、ある特徴的な傾向があります。

それは「うつ状態は本人も辛さを訴えるが、躁状態は自覚しにくい」という点です。

実際に利用者さんへ「調子はどうですか」と尋ねると、「具合が悪い」「いまいち」「意欲がない」「体が重い」と答えることは多くても、「普通です」「調子がいいです」と答えることは少なく、むしろ注意が必要なサインとなる場合もあります。

本日は、双極症において、なぜ躁状態は気づきにくいのかを考えていきたいと思います。

双極症(双極性障害)とは気分の波を繰り返す疾患

双極症は気分の落ち込みであるうつ状態と、気分が高揚する躁状態を繰り返す精神疾患です。

うつ状態では意欲の低下、強い疲労感、不安、身体的不調などが現れ、本人も「辛い」「動けない」「頭が回らない」と自覚しやすい特徴があります。

一方で躁状態では、活動性の増加、気分の高揚、睡眠時間の減少、衝動的な行動(浪費など)などがみられます。しかし本人はそれを「元気になった」「調子が良い」と感じやすく、異常と認識しにくい状態です。

なぜ躁状態は気づきにくいのか

躁状態は「良い状態」と感じやすい

躁状態の初期や軽躁状態ではエネルギーが増え、意欲も高まり、生産的になったように感じます。本人にとっては絶好調の感覚に近く、病気の症状とは認識されにくい状態です。

特に長くうつ状態を経験している人ほど、活動できるようになったことを「回復」と捉えやすく、過活動に気づきにくくなります。

快の感情が「異常」を隠してしまう

人は基本的に「快い感覚」を問題として認識しにくい傾向があります。

うつ状態では、気分の落ち込み、苦しさ、疲労感、不安、絶望感などの不快な感覚が中心になります。そのため本人も「異常だ」「辛い」と認識しやすく、助けを求めやすい状態です。

一方、躁状態では、気分の高揚、万能感、意欲の増加、活動性の上昇など快の感情が強くなります。
脳は快の状態を「良いもの」と判断するため、症状として認識されにくくなります。

これは発熱や痛みのように苦痛があると病気と気づくが、興奮や高揚は病気と感じにくいのと同じ仕組みです。

前頭葉機能の低下により自己観察が弱まる

躁状態では脳の前頭葉の働きが低下するとも言われています。前頭葉は、自己評価、判断力、衝動の制御、客観的な視点を担う部位です。

この機能が低下すると、自分の状態を客観的に見られない、行動の問題点に気づかない、危険性を過小評価するという状態になります。

つまり「自分が普段と違う」という認識そのものが難しくなるのです。

一方うつ状態では自己観察が過剰になり、むしろ自分の不調に敏感になりすぎる傾向があります。

自己評価の歪みと万能感

躁状態では自己評価が過剰に高まり、自分は特別な能力がある、何でもできる、今が本来の自分だという感覚が強くなります。

そのため周囲からの助言や指摘を理解されていない、邪魔されている、心配しすぎと解釈してしまうことがあります。

これは「気づかない」のではなく、「異常ではないと確信している」状態に近いと言えます。

躁状態では自己評価が高まり、自分の状態を客観的に見られなくなります。周囲から心配されても「大丈夫」「心配しすぎ」と受け取ることが多く、支援や治療への抵抗につながることもあります。

注意力や記憶の変化

思考が加速し注意が散漫になるため、自分の行動を正確に振り返ることが難しくなります。状態が落ち着いた後に初めて「普段と違っていた」と気づくケースも少なくありません。

うつ状態との比較による錯覚

うつ状態で何もできなかった経験があると、活動量が増えた状態を「普通に戻った」と感じやすくなります。実際は過剰な活動状態でも、比較によって異常性が見えにくくなります。

社会的成功体験が症状を強化する

躁状態では仕事や活動が一時的にうまくいくことがあります。

仕事量が増える、アイデアが増える、対人関係が活発になるなどの成功体験があると、この状態は正しい、良い変化だという学習が起こり、症状として認識されにくくなります。


と、ここまで何故鬱は気づくけど、躁は気づかないかを考えてみました。ここからは対応方法などを考えていきます。

双極症治療における「低め安定」という考え方

双極症の治療では「低め安定」という言葉がよく使われます。これは気分をやや低めの範囲で安定させることで躁転を防ぐ考え方です。

躁状態に転じると衝動的な行動や社会的トラブルが生じやすく、その反動で強いうつ状態が現れることがあります。そのため波の振れ幅を小さくすることが重要になります。

しかし支援現場では、この低め安定の状態が「元気がない」「辛そう」に見えることも多く、支援者として葛藤を感じることがあります。

それでも重要なのは「元気に見えること」ではなく「安定した生活が続くこと」です。

私たちが現場で意識している関わり方

躁状態の可能性がある場合でも、直接否定するのではなく、本人が自分の状態に気づくきっかけを作る関わりを大切にしています。

最近活動量が増えていないか、睡眠時間は取れているか、予定を詰め込みすぎていないかなど、生活の変化を一緒に振り返ります。

また気分や行動を記録することで、普段との違いを可視化する支援も有効です。本人の自己理解が深まり、再発予防につながります。

さらに躁状態では本人の自覚が難しいため、家族や支援者の客観的な視点も重要になります。安心して変化を伝え合える関係づくりが支援の基盤となります。

双極症支援で大切なのは波に寄り添うこと

双極症の支援は症状を完全に消すことだけを目的とするものではありません。気分の波とどう付き合い、その人らしい生活を維持できるかが重要です。

私たちは状態を否定せず、変化に気づく手助けをしながら安定した生活を共に目指します。うつの苦しさにも、気づきにくい躁の変化にも寄り添い続けることが、長期的な回復につながると現場で感じています。

見えない波を共に乗り越える伴走者として、これからも一人ひとりの生活に寄り添う支援を続けていきたいと思います。

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