双極症(双極性障害)における「鬱と躁の混合状態」 見えにくい苦しみとその特徴
看護師 山田祥和
双極症(双極性障害)は、気分の波が大きく変動する精神疾患であり、「うつ状態」と「躁状態」という正反対の症状が現れることが特徴です。
一般的にはうつ状態と躁状態が別々に存在しますが、その症状が同時に存在する「混合状態」という症状もあります。
これは本人にとっても周囲にとっても非常に理解が難しい状態です。
気分が憂鬱なのに、活動性が増して出かける。じっとしてられない。
意欲がないのに、色々なことに気づき、イライラする。攻撃的になる。
何も面白く感じないのに、やたらと人と話したくなる。多弁。
本記事では、特に「うつと躁の混合状態」について、その特徴や当事者の体験、治療上の課題を話します。

双極症の混合状態とは
混合状態とは、うつ症状と躁症状が同時に、あるいは急速に交代しながら現れる状態を指します。DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、躁病または軽躁病の診断基準を満たすエピソードにおいて、同時に複数のうつ症状が存在する場合に「混合の特徴を伴う」と定義されています。
つまり、気分は抑うつ的で意欲がなく、絶望感や自己否定感に包まれている一方で、身体や思考の面では躁状態に近い活発さや焦燥感が現れるという、心と行動が真逆の方向に引き裂かれた状態なのです。
典型的な症状の特徴
1. 抑うつ気分と意欲低下
混合状態にある人は、自分自身では「鬱っぽい」と感じることが多く、「何もやりたくない」「死にたい」という思いを抱く場合もあります。
食欲の低下や自己評価の低下、罪悪感など、典型的なうつ症状が認められます。
2. 焦燥感と多動
ところが同時に、身体は動いてしまうという特徴があります。落ち着いて座っていられず、部屋を行ったり来たりする、何かしら手を動かしていないと気が済まない、といった行動が見られます。
これは「抑うつ状態のエネルギー不足」とは真逆であり、周囲の人からは「元気そう」「躁っぽい」と映ります。
3. イライラと攻撃性
混合状態では、怒りっぽさや攻撃性の高まりが目立つことがあります。他者のちょっとした言動が気に障る、周囲に対して批判的になる、場合によっては暴言や衝動的な行動に至ることもあります。
このイライラは本人にとっても苦痛で、コントロールできないことにさらに自己嫌悪を感じるという悪循環を招きます。
4. 睡眠の減少
睡眠欲求が低下するのも特徴の一つです。本人は「眠れない」「寝てもすぐ起きてしまう」と訴えますが、実際には活動を止められず、夜中まで動き回ってしまうことが多いです。
結果として、睡眠不足がさらに症状を悪化させるという悪循環が生じます。
本人の自覚と他者からの見え方のギャップ
混合状態の難しさの一つに、本人の自覚と周囲の認識が一致しないことがあります。本人は「自分は鬱で調子が悪い」と感じています。実際、抑うつ気分や絶望感は強く、主観的には非常に辛い状態です。
しかし、周囲から見ると「動き回っている」「よく話している」「攻撃的でエネルギーがある」といった理由から、「躁状態ではないか」と見なされやすいのです。
このギャップは、誤解やトラブルの原因になります。例えば、家族や職場の人は「元気なら働けるはず」「遊びに行けるのだから大丈夫」と考え、本人の苦しみを理解できません。
一方、本人は「誰も自分の辛さをわかってくれない」と孤立感を深め、さらに不安定になります。
自傷や自殺リスクの高さ
混合状態は、双極症の中でも特に自殺リスクが高い相といわれています。うつ症状による絶望感と、躁症状による衝動性が同時に存在するため、「死にたい気持ち」と「行動するエネルギー」が共存してしまうのです。
このため、治療や支援においては、リスク管理が極めて重要となります。
生活で気をつけるポイント
先に述べた通り、混合状態は生活に支障をきたします。人間関係においても破綻することもあります。自分でも意識できるポイントを以下に挙げました。
1. 睡眠の確保
睡眠不足は症状を悪化させる大きな要因です。必要に応じて睡眠薬を使用し、規則正しい生活リズムを取り戻すことが重要です。
眠れなくても活動するのではなく、布団の中でゆっくりするなど、活動量を意識的に減らす工夫が必要です。
2. 環境調整とストレス軽減
混合状態では刺激に過敏になっているため、過剰なストレスや過活動を避けることが求められます。
家族や職場への説明、柔軟な対応も欠かせません。周囲に理解を求めるのも一つの手です。
3.治療は継続する
混合状態では不満や怒りの感情が現れやすく、よくならないという思いから、医療不信に陥りやすいです。
そういう時期であると自覚することと他者の意見を聞いてみるのもいいと思われます。
4.交友関係を広げすぎない
気分は冴えないものの、一見元気そうに見えるため、人からの誘いが多くなります。
しかし、交友関係を広げることは疲労にもつながります。また、浅い人間関係ですのでトラブルの原因にもなりやすいです。

まとめ
双極症における「うつと躁の混合状態」は、本人にとっても周囲にとっても非常に理解しづらく、危険を伴う相です。
抑うつと躁の症状が同時に存在するため、「動けるけど死にたい」「気分は落ち込んでいるのに体は止まらない」という矛盾した状態が生じます。
周囲からは「元気そう」に見えてしまうため、本人の苦しみが見過ごされやすいのも大きな問題です。
まずは自己理解、そしてできれば他者理解を深められればいいです。