双極症 躁状態とうつ状態で見える世界の違い ― 本人と周囲の視点から理解する

看護師 山田祥和

双極症(双極性障害)は、気分の波が大きく変動する精神疾患です。
「躁状態」と「うつ状態」が周期的に訪れ、本人にとって世界の見え方が大きく変わります。そして、その変化は周囲の人から見ても顕著に現れます。

この記事では、双極症の基礎知識に加え、「本人から見える躁とうつの世界」と「周囲から見える躁とうつの姿」を対比しながら話します。



双極症とは?


双極症はかつて「躁うつ病」と呼ばれ、脳の働きや神経伝達物質のバランスの不調によって生じる病気です。

大きく3つのタイプがあります。
双極Ⅰ型障害:典型的な躁状態と鬱状態を繰り返す
双極Ⅱ型障害:軽い躁状態とうつ状態を繰り返す
気分循環性障害:軽い躁と鬱が長期間続く

単なる気分の浮き沈みではなく、生活や人間関係、仕事に深刻な影響を与える点が特徴です。

躁状態で本人に見える世界


躁状態では、本人は強い自信と高揚感に包まれます。

感覚的特徴
「自分は何でもできる」と思える万能感
頭の中に次々とアイデアが浮かび止まらない
鮮やかで明るい世界に見える感覚

行動面の特徴
睡眠時間が短くても活動できる
会話が早口で止まらない
浪費やギャンブルなど衝動的行動に走ることも
交友関係が広がる
性に奔放になる

躁状態の世界は「スポットライトを浴びた舞台」にいるように感じられる一方で、現実とのバランスを失いやすいのです。

躁状態で他者に見える姿


周囲から見た躁状態の人は、普段とまったく違う印象を与えます。

ポジティブに見える点
活発で社交的になり、話題が豊富
よく自分の話をする
仕事や勉強にエネルギッシュに取り組む

心配に見える点
話が飛びやすく、会話がかみ合わない
他人の悪いところに気がつき、攻撃的になる
夜遅くまで活動し続け、体調を崩さないか心配
お金や人間関係でトラブルを起こしそうな行動

周囲は「元気すぎる」「テンションが異常に高い」と感じ、心配や不安を抱くことが多いです。

うつ状態で本人に見える世界


躁の反対に、うつ状態では気分が深く沈み、すべてが灰色に見えるようになります。

感覚的特徴
何をしても楽しくない、興味が湧かない
未来に希望が持てない
自分を責める思考が強まる
全てのことに罪悪感を感じる

身体的特徴
倦怠感で起き上がれない
食欲や睡眠の乱れ(不眠または過眠)
頭が回らない
集中力の低下で簡単な作業も難しい

本人にとっては「厚い霧に覆われた灰色の世界」で、動きたくても動けない苦しみがあります。

うつ状態で他者に見える姿


周囲から見ると、うつ状態の人は普段の姿から一変して見えます。

観察される変化
表情が暗く、笑顔が減る
会話が少なく、反応が鈍い
部屋に閉じこもりがちで外出や活動が減る

心配される点
「怠けている」と誤解されやすい
食事や身だしなみに無頓着になり、生活の乱れが見える
死にたいと口にすることもあり、周囲は強い不安を感じる

他者からは「無気力」や「別人のように見える」印象を持たれることが少なくありません。

躁状態とうつ状態のギャップ


双極症に特徴的なのは、この両極端な状態が入れ替わることです。
昨日まで積極的で話が止まらなかったのに、今日は一言も話さない
数日前まで大きな計画を語っていたのに、今は布団から出られない

本人にとっても苦しく、周囲からも理解されにくい「落差」こそが双極症のつらさです。



周囲ができるサポート


周囲ができるサポートの仕方は、躁とうつで異なります。

躁状態のとき
行動を頭ごなしに否定せず、冷静に環境を整える
休養や服薬の必要性を穏やかに伝える

うつ状態のとき
「頑張れ」と励ますより、気持ちを受け止める
生活が破綻しないよう食事や服薬を支える

本人ができるセルフケア

睡眠と生活リズムを整える
気分の変化を日記やアプリに記録する
衝動買いを防ぐためのお金の管理方法を工夫する
無理をせず、支援を求める習慣をつける

小さな工夫が、気分の波を緩やかにする助けになります。

調子がいい時に自分の取り扱い説明書を作っておくといいです。
不調のきっかけはなにか
その時にどうすればいいか、などなど

まとめ


双極症では、躁状態では「光り輝く舞台のような世界」、うつ状態では「灰色で重い世界」が見えます。
そして周囲からも「別人のように見える」ほど大きな違いがあります。

この落差を本人の努力だけで埋めるのは困難です。周囲の理解、医療のサポート、そして日々のセルフケアが組み合わさることで、安定した生活に近づくことができます。

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