不登校 一日休んでしまったことから始まる行きづらさ 不登校の始まりは些細な事
看護師 山田祥和
「たった一日、学校を休んだだけだったのに……」
そんなふうに振り返る子どもたちの声を、私は何度も聞いてきました。始まりは「そんなこと」が案外多いです。
不登校の始まりにはさまざまなきっかけがありますが、中でも意外と多いのが「ちょっとしたきっかけで学校を休んだことから、行けなくなってしまった」というケースです。

体調不良、家庭の用事、気分が乗らなかった、疲れていたなど、理由はさまざまですが、「そのまま行けなくなった」という背景には、一度休んだ後の“行きづらさ”という心理的ハードルが大きく関わっています。
「クラスメートになんて思われているか怖い」という気持ち
一度休んだあと、学校に行こうとすると多くの子どもたちはこんな不安に襲われます。
「クラスメイトに何か言われるんじゃないか」
「サボってたって思われてるかも」
「先生に言われるかもしれない」
実際にそう言われた経験があるわけではなくても、「そう思われている気がする」だけで、教室に入る足が止まってしまいます。このような不安は、頭の中でどんどん膨らんでいき、事実よりもずっと重く感じられるようになります。
さらに、その翌日も「やっぱり行けなかった」となると、「また休んじゃった」と自己嫌悪が加わり、行けない理由が“蓄積”していく悪循環に陥ります。
これが長引けば長引くほど行きにくくなります。
誰にでもある“心のブレーキ”
このような「行きづらさ」は、特別なことではありません。
誰しも人間関係において、「なんて思われるか不安」「気まずい」と感じる場面はあります。大人だって、仕事を1日休んだ翌日に同僚と顔を合わせるのが気まずいこともあります。
しかし、学校という環境では、同じ教室、同じメンバー、同じスケジュールで毎日過ごすことや、子ども同士の距離が近く、空気を読む力が求められます。「みんなと同じであること」が暗黙のルールとして存在しています。
小さなズレや違いが「浮いてしまうのでは」という恐怖につながりやすいのです。
「悪口を言われるかもしれない」への対処法
一度休んだことで「悪口を言われるのでは」と感じるのも、ごく自然な不安です。しかし、実際には周囲の子たちがそこまで気にしていなかったり、何も言わなかったりすることが多いのも事実です。
とはいえ、そう簡単に気持ちは切り替えられません。そんなときには、以下のような方法が役立ちます。
1.自分の中で「説明できる理由」を用意しておく
「体調が悪かった」「家の都合で」「ちょっと疲れていた」など、無理のない範囲で自分が納得できる“休んだ理由”を言葉にしておくと、もし何か聞かれたときにも安心です。
※もちろん、無理に説明する必要はありません。言えなくても構わないことを理解することが大切です。
2.先生に「フォロー」をお願いする
休みが長なってしまった場合、担任の先生に、さりげなくクラス全体に向けて「お互いに思いやりを持とうね」「みんな体調の波があるよね」といった言葉をかけてもらうだけで、空気がやわらぐことがあります。
本人にとっては大ごとでも、周囲にとっては自然なこととして受け入れてもらえるような“場の雰囲気づくり”が、登校のハードルを下げます。

3.いきなり「元通り」を目指さない
「行くからにはフルで登校しなければ」と思うと、余計に気が重くなってしまいます。休みが長くなってしまった場合、別室登校から始める、保健室に寄る、好きな教科だけ出るなど、自分に合ったペースで少しずつ慣れていく方法もあります。
学校側と相談し、「戻れるステップ」を一緒に考えていくことが大切です。
「行けた」という経験が自信になる
大切なのは、どんな形でも「一歩踏み出せた」という経験です。
たとえ教室まで行けなくても、登校班で歩けた、校門まで来られた、相談室に入れた、、、そのひとつひとつが、「また行けるかも」という自信につながっていきます。
誰かと比べる必要はありません。大切なのは、自分のペースで少しずつ進むこと。そして、それを支えてくれる人がそばにいることです。
行きづらさは「甘え」ではない
一度休んだことによって生まれる「行きづらさ」は、決して甘えでも逃げでもありません。むしろ自然なこころの反応です。
周囲との関係やルールを大切にしているからこそ生まれる、とてもまじめで繊細なこころの反応です。
だからこそ、否定せず、無理に押し戻そうとせず、まずはその気持ちに寄り添うのがベストです。
「怖かったね」「また行こうと思っているんだね」
そんな一言が、子どもにとって何よりの支えになります。
「行けなくなった」のではなく、「今はまだ行けないだけ」
そう信じて見守ることが、再び歩き出す力につながっていきます。