アルコール依存症の夫と共依存の私⑤
看護師 山田祥和
前回までのあらすじ
お酒を飲んで問題行動を起こす夫
夫をなんとか助けようとする私
私を守ろうとする娘
娘に当たる夫
夫に酒を与えておとなしくさせようとする私
私をかばう娘
負のループです
しかし、私が変わったことで夫のアルコール依存症が良くなってきました。
飲んで管を巻く夫
無視する私
飲んで転んで起き上がれない夫
無視する私
飲んで尿失禁する夫
無視する私
以前の私なら手を差し伸べていましたが、もうしません。
第九章:自助グループ
自助グループとは、アルコール依存症の当事者と家族が集まり、語り合う場です。
気持ちを分かち合えるので、涙がよくみられる場でもあります。私自身も本当に助かっています。

そこでは「共依存」というキーワードが頻繁に使われます。私たち家族も共依存でした。その時から薄々気づいてはいましたが、あれよあれよとどつぼにハマり、依存症という病気に巻き込まれていったのです。
自助グループでは、「依存症者に手を差し伸べる」のではなく、「自分自身を守る」ことを学びます。スリップする人もいますが、否定せず、ひたすら話を聞きます。
当事者だから共感ができるのです。
今、あれから5年が経ちました。
夫は現在、通院しながら断酒を続けています。
まだ再飲酒の不安はありますが、以前のような孤独な戦いではなく、自助グループという支え合える場所ができました。
娘も夫に甘えることができています。
夫も息子と遊んでくれたり、家事も手伝ってくれたりしています。
そして仕事もしています。
今は家族という時間ができ、生活を「お酒」から取り戻そうとしています。
それでも傷は癒えていません。
今でもふと、夫の飲んでいた姿を思い出してしまう夜があります。
けれども、「私は私の人生を取り戻す」ために、今日も前を向いています。
自助グループに参加して、自分のこの経験が未だ苦しんでいる人の役に立てばと願っています。アルコール依存症は、家族も苦しく、そして厄介な病気です。

最後に
看護師 山田祥和
私がこのご家族に関わったのは、断酒を決意した時からですから5年前。
ご主人の支援として入ったのですが、奥さんの話が大半をしめる時もあります。奥さんはあの時の苦労話しを大きな口を開けて笑いながら話します。
あんなに苦労してきたのが嘘のようです。明るく朗らかです。
「あの時は働きもしないで偉そうなことを言って、威張って、強気なのに、おしっこを漏らしてる」と奥さんが笑い話をすると、ご主人は「もうやめろよー」と照れ臭そうに返します。
とても仲がいいです。月に一回の訪問看護では、仕事やお子さんのこと、病気や薬の話などもありますが、ほぼほぼ雑談です。
3人で大笑いしながら話しています。時々娘さんも入ってきて、酷い父親だったと娘さんもいじります。
ちなみに本文で、奥さんの体重を90kg以上と表現していますが、実際は〇〇〇kg以上です。
アルコール依存症は、家族もまた深く巻き込まれてしまう病気です。
そして、「意思が弱い人」がなる病気でもありません。一人で止めるのは困難です。知識や気持ちでなんとかなるものでもありません。
地域支援をしている立場からみると、アルコール依存症にとって大切なのは、「人とのつながり」だと感じます。
アルコールは人を孤独にさせます。誰ともつながっていないと、全く変化しません、変わりません。
しかし、誰かとつながっていれば、何かしらの変化が起こることもあります。SOSも出せます。家族も抱え込まなくなります。
奥さんから最後に
この話が、誰かひとりでも「私だけじゃなかった」と思えるきっかけになりますように。
どうか、自分の心と体を守ってください。
自分の人生は、自分のものです。